年金事務所が社会保険料を強権的に徴収
厚労省 「行き過ぎは指導する」
「無理な分納計画を押し付けられ、払えずに差し押さえられた」「相談しても聞く耳を持たず、一括納付を求められた」―。年金事務所による社会保険料の強権的な徴収が後を断ちません。全国商工団体連合会(全商連)は8日、日本年金機構・年金事務所の監督責任を負う厚生労働省に「社会保険料の徴収行政是正」要請を行い、当事者3人を含む17人が参加。省側は「行き過ぎた現場の対応は、事実確認をした上で、是正を図るよう指導する」ことを約束しました。
初めに、全商連の牧伸人常任理事が①滞納している事業者の経営実態や保険料納付の意思を聞き取り、納付可能な分割納付を進める②納付の猶予や換価の猶予が認められることを必ず知らせ、積極的な適用に務める③納付が困難な事業者に対する相談窓口を設置する―ことなどを求めました。
これに対し、省側は「分納は、事業性を損なわない範囲で行うよう、法律上、定められている」「経営状況を丁寧に確認しながら進めるよう求めている」「猶予制度のパンフレットを用意して、説明するよう指導している」と原則を説明。
一方、当事者らは、原則を逸脱する年金事務所の不当な対応を口々に告発。東京都内を中心にシーリング防水工事を行う男性は「経営や生活に支障が出ない程度の金額での分納を認めてください。『首をくくるしかなくなる』と訴えても『関係ない』などと突き放すのはやめて、丁寧に相談に乗ってほしい」と要請。
マッサージ店を経営する男性は「定期的に分納していたが、担当者が代わった途端に強権的な取り立てになり、うつ病やパニック障害になった」と告発。建築設計業の男性は「せめて従業員の給与や生活費に充てる分だけは、差し押さえを解除してほしい」と訴えました。他にも、千葉県の事例で「強権的な徴収で精神的に追い詰められて吐血し、緊急入院した通信工事業者から相談を受けている」との発言もありました。
これらを受けて、省側は問題を認め、「寄せられた事例1件、1件に丁寧に対応する」と約束しました。さらに、今後についても「『困った』という声を全商連で取りまとめていただければ、年金機構から資料を取り寄せ、事実確認をし、個別に指導する」と明言しました。
納付の猶予
自然災害や火災、盗難、自身や家族の病気、事業の休廃止や著しい損失、これらに「類する事実」などにより、保険料等を一時に納付することができないと認められる場合、納税者の申請により「納付の猶予」を受けることができます。
納付の猶予が許可されると、①差し押さえや換価(差し押さえ財産の売却)など、新たな滞納処分はできません。②差し押さえは申し出により一定の要件で解除できます。③延滞税の引き下げ(0.9%、2023年)、または全額免除が可能です。④安心して分納ができます。完納できなければ、1年延長の申請ができます。換価の猶予に移行することで最大4年間、分納できます。⑤国や自治体の制度融資を利用する際、税金の「完納用件」で滞納扱いにならず、有利に交渉できます。
換価の猶予
申請型「換価の猶予」は①分納の誠意が認められる②一時に納付することにより、事業の継続または生活の維持を困難にするおそれがある―場合、差し押さえ財産の換価を1年間(最長2年間)猶予することができる分納制度です。
「申請型」換価の猶予は納期限から6カ月以内の申請が必要です。申請型「換価の猶予」が認められれば、猶予期間内に分納することが可能になり、延滞税も0.9%に下がるなど、負担が軽くなります。申請する時は「一時に納付すると事業または生活の継続・維持を困難となる」事情の詳細、納付困難な金額、猶予を受けようとする期間、分納計画など記載した申請書と財産目録などの書類を税務署長に提出します。
納期限から6カ月を超える期間の滞納がある場合は、年金事務所長による職権型「換価の猶予」を適用させることが必要になります。
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