「人とのつながり、地域に根差す商売の大切さを実感した」「初参加だったが、オンラインだから、いろんな企画で学べた」―。2019年以来、4年ぶりとなる第22回中小商工業全国交流・研究集会(商工交流会)が9月1~3日、8~10日の計6日間、初の全面オンラインで開催されました。主催は、全国商工団体連合会(全商連)と学者、研究者、労働組合などでつくる同実行委員会。「中小業者主役の持続可能な循環型経済・社会の確立を」をテーマに、パネルディスカッションや基礎講座、分科会など18の企画に全国から約1300人が参加登録。コロナ禍と物価高騰、「ゼロゼロ融資」の返済本格化や消費税インボイス(適格請求書)制度など、中小業者を巡る経営環境の激変を乗り越える知恵と工夫を、豊かな実践報告から学び合い、中小業者が地域で果たす役割に確信を深めました。
【企画1・全体会】地域循環型の経済を
初日の企画1「全体会」では、岩瀬晃司実行委員長(全商連副会長)が「完全オンラインを生かして複数企画に参加し、積極発言を」と主催者あいさつ。
岡崎民人常任実行委員(全商連事務局長)が基調報告を行い、前回(2019年9月)以降の消費税10%への増税やコロナ禍、ロシアのウクライナ侵略、物価高騰など、中小業者を取り巻く激動と苦難を跡づけ。「総理大臣も安倍、菅、岸田へと変わったが、新自由主義の継続・強化と改憲・大軍拡・大増税に突き進む政治の翼賛化が加速した」と指摘しました。
一方で、声優や漫画家など消費税インボイスに反対するフリーランスと民商・全商連との共闘が広がり、「コロナ禍や物価高騰から営業と暮らしを守る取り組み」では、国や自治体の直接支援を実現し、その活用に全力を挙げてきたことを紹介。「国民の声を無視し、財界・米国の要望を最優先で強行すればするほど政権への批判は強まる」と述べ、「商工交流会を大きく成功させ、経営意欲の向上と地域経済発展の力に」と呼び掛けました。
北海学園大学の大貝健二教授が「中小企業の連携による経済活性化の可能性」をテーマに記念講演。
日本での「地域経済の活性化」の歴史を3段階に分けて概説しました。①高度経済成長期には、域外から資本を呼び込む「外来型開発」で経済振興をめざしたが、農山漁村の衰退と公害の深刻化を招いた。②グローバル化時代には、日本企業の海外投資が急増し、米国の外圧で規制緩和した結果、国内産業の空洞化と地域間格差の拡大を招いた。③人口減少と自然災害多発期の現在は、「地方創生」「ローカルアベノミクス」が叫ばれたが、災害便乗型開発や「生産性」偏重の中小企業不要論が横行した。コロナ禍と物価急騰で倒産・廃業の危機が高まる今、「足下から、経済をどう立て直すかが問われる」と提起しました。「地域企業の99・8%、常用雇用者の64・2%、付加価値額の52・9%を生み出す中小企業が元気になることが、『地域経済の活性化』につながる」と述べました。
「問題は、どう元気になってもらうか。地域で強固な経済循環を生むには、地域内の連携を構築・強化することが不可欠」と述べ、コンブ漁師が体験型観光で地域の大自然と食を紹介したり、産廃処理業者が乳業メーカーの汚泥から肥料を開発するなど、北海道での中小企業の連携事例を紹介。地域内に「ある」ものを生かして基盤産業化し、「10年後、20年後にどんな地域であってほしいかを具体的に考えることが大事」と述べました。
中小企業振興条例について「究極の目的は、地域経済を活性化し、循環型経済を生み出すこと」とし、「自治体の約3分の1が条令を作ったが、具体的な動きは『これから』が圧倒的だ」と指摘。「中小企業の支援だけでなく、地域経済をどう盛り上げるかという視点で振興施策を求めてほしい」と呼び掛けました。
【企画2・パネルA 自治体の役割】業者に直接支援を
企画2「パネルディスカッションA 小規模事業者を支える自治体の役割」では、京都橘大学の岡田知弘教授をコーディネーターに、パネリスト4人が、コロナ禍や物価高騰下で自治体施策が果たしてきた役割を深めました。
京都府与謝野町産業観光課の井上公章さんは、町の中小企業振興基本条例の制定過程を発言。「地域にお金が回る仕組みづくりが必要と、産業振興会議を立ち上げ、その提言を受けて振興条例ができた」と述べ、「地域経済を分析し、若者を産業振興会議委員に選び、事業者の声を聞いて、予算化していっている」と語りました。
広島県連の寺田拓也事務局長は「県の振興条例の『中小業者支援団体』に民商・県連を認めさせたことで、県と個別会議を積み重ねてきた」実績に基づき、県連独自の営業動向調査を活用した県への政策提言や、全自治体要請に踏み出した経験を語りました。
長野県原村で「多世代型シェアハウス」を運営する諏訪地方民商の岩崎朋子さんは「少子高齢化社会で、自分らしく生きられる場所としてシェアハウスに着目した。19歳から93歳の男女11人が共に暮らしている」と説明。「高齢化率が非常に高い地域で、より良く暮らすため、地元の人と移住者との橋渡しを、自治体が積極的に行ってほしい」と話しました。
全商連事務局員の宮津友多さんは、全商連がこの間、二度行った全自治体への「支援策の実施状況調査」を報告。「国の支援策が行き届かない事業者に対して、自治体の直接支援がきめ細かに取り組まれ、自治体の役割の大きさが改めて浮き彫りになった」と述べました。
【企画3・パネルB 私の経営改善】つながりを生かす
企画3「パネルディスカッションB 危機に負けない私の経営改善」では、民商会員3人が実践報告し、地域に根差す中小業者にとって、家族や住民、従業員など“人とのつながりを生かす大切さ”が強調されました。
岩手・一関民商の佐藤涼太さん、昌子さん夫妻は「最上のおもてなし」をコンセプトに美容店とエステ店を経営。コロナ禍での経営改善と地域を元気づけたいと、民商に相談。SWOT(スウォット)分析で、顧客5千人分のカルテなど自店の強みである“高単価を生み出す丁寧な対応”が顧客の絶対数を増やせない弱みにつながっていることに気付き、「最新のPOSレジ導入によってカルテ入力などの業務改善ができた」と報告。「地域の福祉事業所と共同し、地元産ハーブを使ったアロマオイルの製造に挑戦。地域貢献も始めている」と語りました。
福岡民商の田口剛史さんは「人がやらない仕事をするのが、自分の仕事」と、本業の外壁塗装に限らず、「壁紙の貼り替えや雨漏りの修理まで引き受けている」と自己紹介。「民商の会議や学習会で先輩の話などを聞き、自らの経営に生かしてきた。多額の負債で悩んだ時も、民商の仲間に励まされ、乗り越えられた。全国の仲間がいることで、仕事にもつながっている」と、民商運動を経営力向上につなげた経験を披露しました。
亡き夫が始めた観光送迎バス事業を引き継いだ山形・鶴岡民商の岡部美喜さんは「従業員の後押しもあって継承した。コロナ危機でも各種の補助金や助成金をフル活用し、営業許可更新の際には“平時の基準を当てはめる理不尽な扱いをやめよ”と、全中連(全国中小業者団体連絡会)での国土交通省要請で訴え、何とか乗り越えた」と述べました。
コーディネーターの武庫川女子大学専任講師・山下紗矢佳さんは「それぞれの報告者は①自社の強みが明確②誰が自社のお客かを把握③しっかりした情報の受発信―との共通点がある。地域社会への問題意識もあり、人とのつながりを大切に、地域に根差した経営をし続けることが『危機に負けない経営』のヒントになる」と、まとめました。
【企画4・基礎講座① 経営計画作り】自社の「強み」分析
企画4「基礎講座①経営計画の作り方と実践方法」では、三重・伊賀上野名張民商の会員2人が、民商の援助を受けて国の小規模企業持続化補助金を獲得した経験を報告。
エアコンの新調に活用した宮脇沙織さん=ラーメン店=は「夫と『融資や補助金など、あらゆる手段でコロナ禍を乗り越えよう』と話し合って挑戦した。近くのドライブインが昨年閉鎖したが、うちが持ちこたえたのは、その時の経営分析があったから」と発言。キッチンカー購入に充てた岡井弘さん=お好み焼き=は「コロナ禍で店舗経営が苦しくなり、キッチンカー出店を計画。交通事故に遭い、店は手放したが、キッチンカー専業でやれているのは、経営を見直していたから」と話しました。同民商の杉本秀逸事務局長は「民商だから、経営計画を互いに検証でき、懇切丁寧なアドバイスができる」と強調しました。
8面「発想の転換経営のチャンスをつかめ」で、おなじみの弥永巧児さん((株)第一経営相談所経営コンサルティング室)が「経営を維持・発展させるには、自社を客観的に見て、経営計画を作ることが不可欠だ。業者は自然災害など経営環境の激変に弱いので、違和感に気付き、早めの対策が大切」とアドバイス。参加者は、SWOT分析にも10分ほど挑戦しました。弥永さんは「あるクライアントが、保有する特許を『強み』と認識していなかった。自社にとっては当たり前のことが『強み』になる」と述べ、「自社の経営計画を他人に評価してもらうと効果的だ。民商で意見交換し、経営に生かそう」と呼び掛けました。
【企画5・基礎講座② インボイス対応】消費税廃止の展望
企画5「基礎講座②インボイス対応を学び合う」では、湖東京至税理士が「インボイス廃止運動から消費税廃止運動へ」をテーマに講演。消費税廃止の展望について話し合いました。
湖東さんは、周知不足と反対運動の結果、免税事業者のインボイス登録が一向に進まない状況を紹介し、「免税事業者は登録せず、今まで通りの所得税申告をしよう」「親会社から『登録しなければ取引しない』と言われたら、3年間は80%仕入れ税額控除ができることを示して交渉しよう」などと呼び掛けました。
「インボイス廃止運動を通して、消費税の本質が明らかになってきた」と指摘。輸出企業に還付金を与えるために導入された消費税(付加価値税)とインボイス制度の歴史に触れ、「インボイス制度を廃止するには、消費税を廃止するのが一番だ。インボイス反対運動を消費税廃止運動へと昇華させよう」と訴えました。
【企画6・建設】適正価格の実現めざし
企画6「業種別交流会・建設業」では、人材不足や不公正取引など、直面する課題と対策を交流。助言者の元日本大学教授の永山利和さんは「新自由主義の下で『半値、8掛け、2割引き』で公共工事の質が低下した。千葉県野田市が公契約条例を制定して14年たち、課題はあるが『公共を取り戻す』動きが前進している」と述べました。
建設政策研究所の市村昌利さんは「人手不足や資材価格高騰が目下の課題」と指摘。「賃上げ施策も進んでおり、担い手確保のためにも、適正価格の取引を実現することが重要だ。標準見積書の活用も効果がある」と述べました。
茨城・日立民商の桑原八郎さんは、下請けを脱し、担い手づくりを進めた経験を報告。新潟・三条民商の佐藤豊さんは、国や市のリフォーム支援を客に知らせ、仕事起こしにつながったと発言。同・魚沼民商の杵渕政浩さんは、会員の「フルハーネス安全帯の講習をしてほしい」との声に応えて「建設業者部会」を立ち上げ、仕事に役立つ実践的な講習会を開いていると報告。広島北民商の寺本政喜さんは、広島市の小規模修繕契約希望者登録制度を活用する「安佐南北小規模修繕登録者連絡会」の取り組みを報告しました。
「平和と民主主義のための建設の会」の竹内清さんが特別報告。大手ゼネコンが先の戦争に協力した歴史に触れ、「戦争準備ではなく、平和の担い手となる建設産業に」と訴えました。
【企画7・製造】AIに代用できぬ技術
企画7「業種別交流会・製造業」では、駒澤大学の吉田敬一名誉教授と日本大学の山本篤民教授を助言者に、民商会員4人が自らの商売を語りました。
仙台民商の三戸部尚一さんは、印刷業でのパソコン普及に伴う仕事減を大判印刷や自費出版などへの進出でカバーしていると発言。「情報を伝えるという社会的役割を果たし、挑戦を続けたい」と表明。
静岡・掛川民商の西野匡彦さんは、父から継いだ木工製品製造で「小規模でも損益計算は大事」と指摘。資材が高騰しても「取引先に価格交渉の根拠を示せ、不採算の仕事は断れる」と強調しました。
埼玉・川口民商の米田努さんは、付加価値が高いプラモデルの原型製作に特化したと発言。コロナ禍でも売り上げを伸ばし、「生き延びる秘訣は安売りをしないこと」と述べました。同・三郷民商の石井忠雄さんは、精密なゴムパッキンなどを製造し「自分が作った製品が、どこに使われているか分からない」としつつも「この仕事は、機械やAIには取って代わられない。技術を磨きたい」と意欲を見せました。
山本さんは「4人は変化に対応した商売や商品の工夫でニーズに応えている。安易な値引きをしないことが持続経営には大事で、そのために数字で経営状況を把握しよう」とアドバイス。吉田さんは「原材料や燃油、人件費の高騰は当面続く。固有の技術を、市場の変化に対応させる先見性と決断力ある経営を」と、まとめました。
【企画8・卸・小売・サービス】地元の魅力高め活性化
企画8「業種別交流会卸・小売・サービス」では、和歌山大学の足立基浩教授を助言者に、三重・志摩民商の大西こずえさん=キャンピングカーレンタル、鹿児島民商の植村秀和さん=印刷、東京・葛飾民商の今井賢吾さん=行政書士・ドローン撮影、京都・中京民商の馬場雅規さん=うなぎ蒲焼き・総菜小売=が実践報告。地域に必要とされる商売の在り方や、新たなアイデアを生かした販路拡大などを報告しました。
足立さんは「『まちづくり』とは、街の宝を探し、磨き育てることだ。地元にこだわり、魅力を高め、地域活性化につなげよう」と提起しました。
質疑では「新たな事業に挑戦する気力は、どこから湧くか」が話題になり、足立さんは「商売を楽しむことにあるのでは」と助言。「『いつまでに、何をする』と目標を立て、地域でネットワークを広げ、自分の思いを実現する商売を満喫しよう」と呼び掛けました。
【企画9・料理・飲食】対面の重要性を再認識
企画9「業種別交流会料理・飲食」では、東京都立大学の谷口功一教授と中央大学の八幡一秀教授を助言者に、北海道・旭川民商のダニス真紀さん=スナック=と佐賀・唐津民商の井上年喜さん=居酒屋=が、コロナ禍での経営努力や顧客ニーズに応じた愛される店づくりを報告。岩手・胆江民商の永澤茂幸さん=スナック=と東京・板橋民商の上田誠さん=居酒屋= は、地域と飲食店をつなぐ夜オリやナイトツアーの再開を発言しました。
谷口さんは、夜の街の戻り具合が大都市と地方で差があると指摘し、「コロナ前に完全に戻ることはないと考えた対応も必要」と述べました。「コロナ禍で、対面での飲み会の重要性が再認識された」と励ましつつ、タクシー不足が夜の街の衰退につながる恐れも警告しました。
八幡さんは「『町中華ブーム』は、地域に既にある店の魅力を発掘する“あるもの探し”の面白さだ。民商の異業種交流で見識を深め、磨いてきた自慢の味やサービスを発信してほしい」と呼び掛けました。
【企画10・公正取引・FC業界の課題】公正取引法の制定を
企画10「公正取引の実現とFC業界の課題」では、助言者を務めた弘前大学の長谷河亜希子准教授が、独占禁止法の「優越的地位の濫用」規制の問題点やFC規制法制定の必要性などを説明。
全労連の秋山正臣副議長が、労働組合として行った中小企業支援への提言やフリーランス保護の取り組みを報告しました。
FC加盟店協会徳島支部の笠原修事務局長は「ミニストップの新契約問題」で「加盟店の利益が減少するとの本部モデルを示し、公正取引委員会に申告したが対応されなかった」と公取委の限界を指摘。STOP!インボイスの阿部伸さん=ライター=は、インボイス制度がフリーランスの取引に与える影響を語りました。全商連の岩瀬晃司副会長は、損害保険代理店の経営を脅かす大手損保の手数料ポイント制度について「大手損保が毎年一方的に決めており、公取委に申告した」と報告しました。
元日本大学教授の小林世治さんが「独禁法や下請法を強化し、FC法を成立させて、包括的な公正取引法を実現させていく必要性が高まっている」と、まとめました。
【企画11・農商工連携】地域の資源作り出す
企画11「農商工連携による地域経済振興」では、駒澤大学の大前智文准教授が助言者報告。グローバル化で地域が廃れる中、国が農商工連携や6次産業化に注力していると紹介し、「農商工連携は、地域の資源を自ら作り、売る人の利益も確保できる。マーケティングや事業者同士の関係の在り方などを深めたい」と述べました。
長野・上伊那民商の大島歩さんは、農産物の取引やカフェ事業などを報告。「自分たちの居場所ができたら…と、地域で尊敬できる人たちと、やりたいことをやったら、周囲からも必要とされるようになった」と話しました。
京都・与謝民商の福井康喜さんは地元の果物でジャムを10種以上を製造販売していると述べ、「地域の産業をつなぐため、若い人をどう育てるかが課題」と語りました。
長崎県平戸市での黒にんにくの6次産業化や、北海道北見市でのトマト農家が市の支援を受けての加工品開発などの実践も報告されました。
北海学園大学の大貝健二教授は「農商工連携は、生産から加工を通じ、地域で付加価値が生まれる」と強調。「売れるまでの幾つものハードルを『餅は餅屋』の強みを発揮して乗り越えよう」と、まとめました。
【企画12・エネルギーと中小商工業】循環経済で脱炭素へ
企画12「エネルギーと中小商工業」では、産業技術総合研究所の歌川学主任研究員が、脱炭素対策の省エネや再エネを導入することで「地域循環型経済の構築や、地域での中小企業の仕事おこしにつながる」と解説しました。
福島・須賀川民商の谷藤允彦さんは、市民共同発電所の取り組みを報告。FIT(固定価格買取制度)の改悪で採算が悪化しているが「新たに住宅用分野に注力し始めた」と展望を語りました。同・東石民商の熊井利治さん=建築塗装=は、断熱塗料を活用した光熱費削減を顧客に提案し、喜ばれていると語りました。
長野県環境政策課の平林高広室長は、エネルギー施策を地域経済活性化に結び付けていると報告。「全ての屋根にソーラーを」と、太陽光発電の設置事業者を補助し、地域に仕事を回していると述べました。
名城大学の井内尚樹教授は「国の再エネ政策は大企業のもうけの場になっている。エネルギーを地域資源と位置付け、地元業者の仕事に、どうつなげるかが課題だ」と指摘しました。
【企画13・民主的な税制・税務行政】権利憲章の制定こそ
企画13「民主的な税制・税務行政を考える」では、不公平な税制をただす会共同代表の菅隆徳税理士が、大企業優遇税制の下で2021年度の法人税収は、消費税導入直後の1990年度より13兆6千億円減っていると告発。「法人税のゆがみや不公平をただすだけで、約23兆円の財源が生み出される」と報告しました。TCフォーラム(納税者権利憲章をつくる会)事務局長の平石共子税理士は、先進各国と比べて日本の税務援助制度が著しく立ち遅れている実態を紹介。「納税者権利憲章を制定することで『課税庁が主役』から『国民・納税者こそ主役で、課税庁のお客さまだ』との流れに変えることが重要」と提起しました。
京都・山科民商の今西和政さんが「『今西税金裁判』を学ぶ」をテーマに裁判闘争の体験を報告。税務相談停止命令制度の創設など「自主申告運動への介入が強まっている今こそ、仲間と集まって、話し合い、相談し、助け合うことが大切」と訴えました。
【企画14・地域金融、融資制度】融資受け積極経営に
企画14「中小業者を元気にする地域金融、融資制度」では、静岡大学の鳥畑与一教授と金融労連の中島康隆中央執行委員長が助言者を務めました。
岩手・一関民商の山口伸事務局長と長崎・東彼民商の朽原明浩事務局長が、民商会員が借り入れを通じて経営を改善した事例を報告。
東京・豊島文京民商の小林秀一さん=豆腐店=は、融資を受けることに良い印象を持っていなかったが、コロナ禍で学校給食などの取引がストップし、売り上げの4割が無くなったため、信用金庫から融資を受けて資金繰りを改善。「新商品の販売など、売り上げ向上策にも取り組むことができた。手持ち資金があることで原材料の仕入れに余裕ができ、機械の修理などにも回せた」と融資活用のメリットを強調しました。
鳥畑さんは「『ゼロゼロ融資』の返済が本格化し、政府は借り換え保証の活用を言うが、小規模事業者にはハードルが高い。『伴走型支援』も、生産性だけを物差しにした中小企業の淘汰につながりかねない」と指摘。「既存の支援策を活用しつつ、その改善を求めることが大事だ」と述べました。
【企画15・あるべき社会保障】自助ではなく公助に
企画15「あるべき社会保障を考える」では、佛教大学の金澤誠一名誉教授が、社会保障には「ジェンダー平等の人権保障や平和な社会、最低生活の保障などが必要だ」と指摘。新自由主義によって公的責任が後退し、自己責任を強調する自助・共助が強まった過程を振り返りました。
同じく長友薫輝准教授は「地域に住み続けるには医療や公衆衛生が必要だが、国が進める医療機関の統合や病床削減で、それらが遠ざけられようとしている」と指摘。「医療や介護、福祉は地域の重要産業で、雇用面の役割も大きい。社会保障を抑制させない運動が必要」と述べました。
新潟・新発田民商は、担当する聖籠町で、町長との懇談や町議会での質疑を通じ、コロナ禍で国民健康保険(国保)の事業主への傷病手当を創設したと報告。埼玉・深谷民商は、コロナ禍でも、市役所の納付相談窓口に張られた「滞納処分強化」のポスターを、共産党の議員とも連携して外させたと発言。千葉県連は、アンケートを千人以上集め、国保などの保険料が高過ぎて払えない実態を自治体に示したと報告。札幌西民商は、父親をみとったことで介護福祉士の資格を取り、介護事業所を営むようになった会員の体験を発言しました。
【企画16・自治体要請と施策の活用】業者の声を直接届け
企画16「自治体要請と施策の活用」では、自治労連の板山裕樹中央執行委員が、自治体職員の立場から「コロナ禍や物価高騰下での自治体施策」を説明。
群馬・渋川北群馬民商の松澤俊夫副会長が、市長が交代して民商が市長と懇談できるようになり、飲食店への直接支援や、国保の事業主への特例の傷病見舞金を創設させたと発言。「業者の声が行政に直接届く工夫が大事」と述べました。
静岡・富士宮民商の小野田雅彦事務局長は、市の振興条例に基づく中小企業懇話会委員を務め、「小規模事業者への実態調査などを提案した」と発言。「振興条例ができた後の具体化が大事」と実感を込めました。
兵庫県連の土谷洋男会長は、9年連続で県内の全自治体と懇談して「信頼関係を築き、高められた」。滋賀・湖東民商の藤関福樹副会長は「コロナ禍にあえぐスナックのママなどが自治体要請に参加し、独自支援金を創設」と述べました。
名城大学の井内尚樹教授は、中小企業振興条例制定の歴史と民商が果たした役割に触れ、「国が『生産性』の無い中小企業を淘汰しようとする中、業者の存立基盤を守る運動が必要」と提起しました。