政府は、2023年版中小企業白書、同小規模企業白書を閣議決定し、公表しました(4月28日)。2023年版の特徴を吉田敬一・駒澤大学名誉教授が3回にわたって解説します。
今年度の白書は中小企業・小規模企業が喘いでいる物価高騰による価格転嫁問題や“ゼロゼロ融資”の返済問題および人手不足問題への支援策には、ほとんど触れられず、総論部分では、①生産性向上および独自技術の確立による価格転嫁能力の向上②そのための投資の拡大とイノベーションの加速により③賃上げ・所得の向上の三つの好循環を実現することが重要である―と述べられ、アベノミクス以降の新自由主義政策が、コロナ後の中小企業・小規模企業の活路打開の基本方向として示されています。昨年度までの白書のスタンスとは異なり、三つの好循環の手前で苦しんでいる企業の整理・淘汰政策への転換が示唆されている点が問題です。以下、主要な論点を整理しましょう。
困難の原因触れず 生産性向上求める
中小企業・小規模企業の実態の構造分析(3章)では、第1節で企業間取引・価格転嫁の現状が分析され、大企業と比べて中小企業の価格転嫁力が低下しており、それが1人当たり付加価値額(付加価値労働生産性)の減少に帰結していると書かれています。なぜ中小企業では価格転嫁が困難なのかという原因には触れず、生産性向上・技術革新が唐突に求められています。
昨年12月23日に中小企業庁が公表した価格交渉促進月間フォローアップ調査によると、直近6カ月間について、仕入れ価格上昇分を完全に転嫁できた企業は17.4%に過ぎず、転嫁率0割(転嫁できず)の企業が16.3%、逆に減額された企業が3.9%確認されました。報告書では「受注側中小企業のコスト全体の上昇分に対して、発注側企業がどれだけ価格転嫁に応じたかの割合を『価格転嫁率』として算出すると46.9%」にとどまっていたと述べられています。
価格転嫁に応じぬ 大企業に言及せず
また白書の78ページのグラフ(図)では、原材料費の転嫁率は48.1%ですが、エネルギー費は29.9%、労務費は32.9%に過ぎず、中小企業の多くは採算割れに直面しています。
さらに価格転嫁の推進に向けて政府が力を入れているパートナーシップ構築宣言の効果は認められません。公正取引委員会は昨年12月27日公表の「独占禁止法の『優越的地位の濫用』に関する緊急調査の結果」を踏まえて、独禁法の優越的地位の濫用に該当する恐れがあるとして、コスト上昇分を取引価格に反映する協議をしなかった13社・団体の名前を公表しました。このうちの6社はパートナーシップ構築宣言を行っており、日本を代表する大企業であるトヨタ系列の最重要部品メーカーのデンソーと豊田自動織機が含まれていました。また4030社に対して懸念事項を示した注意喚起文書を送付したことに白書は触れていません。
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