健康保険証を2024年秋に廃止し、マイナンバー(個人番号)カードに一本化することやマイナンバーの利用拡大を図るため、マイナンバー法など13の法律を改める「束ね法案」が14日の衆院本会議で審議入りしました。医療現場では「マイナ保険証」への対応(1日から義務化)でトラブルが続出。カードの誤交付や情報流出も相次ぎ、個人情報を国家が一元管理し、集積された膨大なデータを「もうけのタネ」として企業に提供しようとするマイナンバー制度への不安と批判が高まっています。問題点を改めて紹介します。
マイナ保険証稼働せず 医師・中村健一さんのクリニック「保険証残すべき」
「このままでは、来年の秋に現行の健康保険証が廃止されたら、とんでもない事態になりますよ」。こう話すのは「ドクターケンクリニック」の中村健一医師。千葉市緑区で30年間、皮膚科を開業しています。昨年8月にマイナンバーカードによるオンライン資格確認のための装置を高さ1メートルほどの受付カウンター脇に設置しました。
設置後すぐに装置が起動しないトラブルに見舞われます。「装置を設置したNTTには電話はつながらず、販売したシステム会社には『原因は分かりません』と言われ、途方に暮れました」。結局、10日後に装置は正常稼働したものの、装置が稼働しなければ、来秋以降は確実に保険診療はできなくなります。
「今は、まだ現行の保険証があるから乗り越えられたけど、保険証が廃止されたらと思うと、ぞっとする」
装置稼働後も、操作の分からない高齢者の対応などにスタッフの手が割かれます。マイナンバーカードを持っていない、カードを持っていても保険証とひも付けしていない、カードを忘れてきた…。患者ごとの対応が求められます。「そもそも車いすの方や認知症の方などは、どうやって顔認証するんですか。マイナンバーカードによるオンライン資格確認は弱者のことなど何も考えられていない」。中村医師は憤ります。
千葉市は2019年、台風15号によって甚大な被害に遭いました。災害時に停電やインターネットの回線が不通になれば、オンライン資格確認のシステムは途絶えます。「健康保険証が廃止され、カードが使えない事態となれば、命に関わる事態になります」と中村医師。「現行の健康保険証さえ廃止されなければ、多くの問題は解消するはずです」と指摘しました。
横浜市 他人の住民票誤交付 コンビニで18人分
横浜市は3月27日、マイナンバーカードを利用したコンビニエンスストアでの住民票などの交付サービスで、他人の住民票などが発行されたと発表しました。個人情報が赤の他人に漏えいする大問題です。
同市が確認した誤交付は、その後に判明した分も合わせて10件・18人分(4月7日発表)。市は3月28日の記者発表で、誤交付の原因を「例年にないシステム負荷が発生し、申請者に他人の証明書が誤交付されるというシステムエラーが発生した」と説明しています。
トラブル発生後、交付サービスは同27日午後2時に緊急停止。「システムの不具合を修正し、トラブルが再発しないことが確認された」(同市)ことから、2日後から再開されました。
マイナンバー制度の問題点を指摘し、その廃止を求めている「共通番号いらないネット」の原田富弘さんは「マイナンバーも含む個人情報が漏えいする重大な事案です。システムトラブルとしているが、マイナンバーカードを活用する限り、こうした問題は必ず起こります。政府は『マイナンバー制度そのものとは関係ない』と開き直りますが、マイナンバーの活用を図ってきたのは政府であり、あまりにも無責任な態度です」と批判。「マイナンバーカードの強引な普及を許さず、マイナンバーの利用拡大をやめさせる必要があります」と強調しました。
個人番号の紛失・漏えい 5年で5万6千人超 宮本岳志衆院議員 質問で明らか
5万6541人分―。2017年度から21年度の5年間で紛失・漏えいしたマイナンバーに関する情報の数です。日本共産党の宮本岳志衆院議員が昨年12月6日の総務委員会で質問。個人情報保護委員会の三原祥二事務局次長が答弁で明らかにしました。
19年には、3万3千人分超の情報を保存していたUSBメモリーを紛失。20年には、本来マイナンバーを扱わないことになっている委託事業者に1万人分超の情報を漏えいするなど、「マイナンバーカードは安全」と強弁する行政機関自身が個人情報の流出を招いています。
政府はマイナ保険証を義務化し、マイナンバーカードの取得を実質強制しようとしていますが、個人情報漏えいの危険がさらに高まることは明白です。マイナ保険証の義務化は中止すべきです。
「マイナンバーの問題点は」
マイナンバー制度反対連絡会 事務局長 原 英彦さんに聞く
トラブル続き、問題山積のマイナンバー(個人番号)制度の問題点について、マイナンバー制度反対連絡会の原英彦事務局長に聞きました。
重大なトラブルが多発
奈良市や横浜市で、マイナンバーカードを巡って、個人情報が他人に漏えいしていることを示す重大なトラブルが起きました。さらに4月1日から、マイナンバーカードと一体化された健康保険証によるオンライン資格確認が原則義務化されたことによるトラブルも各地で多発しています。
とりわけ、マイナ健康保険証のトラブルは、国民の医療を受ける権利に直結する問題です。
現行の健康保険証を廃止し、事実上、マイナ保険証の取得を強制することは、国民皆保険制度の崩壊につながる憲法違反の大問題です。
行政サービスが人質に
個人情報の漏えいやシステムトラブルなど、マイナンバー制度が抱えるリスクは当初から想定されていました。だから、そのリスクを承知でカードを取得するか、リスクを避けるために取得しないかは個人の選択に任される任意取得が原則なのです。
ところが岸田政権は、現行の保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化することで“医療を受けたいならマイナンバーカードを取得せよ”と事実上、強制取得へと転換しました。
さらに、地方交付税の算定基準にカードの申請率を盛り込むことで、地方自治体にその普及を競わせるという姿勢が問題です。こうした政府の姿勢が、学校給食無償化や市民バスなどの住民サービスを人質に、市民に実質的にカード取得を強制する自治体を生んでいます。
軍拡・大増税と一体で
情報漏えいの懸念や、各種手続きで従業員から番号を預かる中小業者が抱える責任と事務負担の大きさ、次々と起こるトラブル、もたらされる分断と差別…。そもそも、マイナンバー制度自体、国民が望んで導入されたものではありません。自公政権、大企業・財界という権力側の要請で導入されたものでした。
マイナンバー制度を軸として、国家による国民の情報管理が進められています。マイナンバーと健康保険証との一体化、預金口座とのひも付けで、国家が個人の口座残高を把握し、国民負担増や課税強化を狙っています。こうした「監視国家」づくりが、自公政権による「強権国家」「戦争する国」づくり、「軍拡・大増税」と一体で進められているところに重大な問題があります(図1)。
岸田文雄政権が推し進める「デジタル田園都市国家構想」の基本方針は、その「意義・目的」の第一に、「経済成長」をうたいます。その方針の下で、「デジタル社会のパスポート」と位置付けられるのがマイナンバーカードです。
大企業が喉から手が出るほど欲しい個人データが官から民に提供されます。デジタル化を支えるシステムやメンテナンス、必要な設備などをIT大企業が提供します。こうして一部大企業の利益が将来にわたって保障されるのです。
世界の潮流は「見直し」
岸田政権は今国会に、マイナンバーカードと健康保険証の一体化や、同カードの利用範囲の拡大を盛り込んだ法案を提出し、その成立を狙っています。
一方、世界では、数々の問題を抱えるマイナンバー制度の「見直し」が進んでいます(図2)。
次々と問題が起こり、その解決を先送りしたままで、法案を強行することなど断じて許せません。政府によるマイナンバーカードの強制と、もたらされる差別に国民の怒りが沸き起こっています。何よりもまず、政府は法案を撤回すべきです。