マイナ保険証 命を人質にした悪巧み|全国商工新聞

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危機管理も十分にせず 国民の常時監視を狙う

白鷗大学名誉教授 石村 耕治さん

 政府は、健康保険証も運転免許証も廃止して、マイナICカード、マイナ保険証に一本化するという。マイナ保険証は、国民皆保険制度で逃げきれない国民の命を人質にした悪巧みだ。マイナICカードを紛失し再発行を求めるには、最低でも健康保険証か運転免許証がないと本人確認ができない。現行の健康保険証などの廃止、一本化は無謀だ。それに、本人確認に2種類のIDを求めるのが多くの先進諸国での常識だ。
 マイナ保険証では、医療機関や薬局などに設置されたICカード読み取り機を使い、顔認証データで本人確認をする。だが、こうした仕組みは、国家による国民の顔認証データの集中監視につながる。データ監視国家の構想だ。国中の路上に張り巡らされたNシステム(自動車ナンバー自動読取システム)の医療分野版、いわば「Mシステム」の創設と見てよい。国民が医療機関や薬局などを訪れることで、本人のはっきりした同意なしに生涯不変の生体情報の提供を強制されるのは、個人情報保護の基本原則とぶつかる。民主国家では、センシティブ(機微)な生涯不変の生体データの利用を、人権保護の観点から厳しく制限する方向にある。
 これまでマイナICカードとともに12桁の背番号を隠していたカバーの配付をやめるという。他人に見られても危ない番号ではないし、情報流失の懸念もないからだという。フェイクだ。「お上がした12桁の入れ墨を隠すな」は権威主義国家の発想だ。
 政府がめざすのは、外国人にはパスポート、内国人や在留外国人にはマイナICカード/マイナ保険証を“内国民登録証カード/国内パスポート”として、常時携行させる社会だ。警察官がICカード読み取り機を持って街中を巡回するデータ監視社会・監視国家の道だ。職務質問でカード不携帯を理由に「交番へご同行を」の社会がくる。カードが見つからないと「お使いや散歩にも出られない」社会が待っている。カードで移動の自由を常時監視するのは人権侵害、憲法違反だ。
 わが国は周りを権威主義国家に囲まれている。こうした国家に侵略・占領されたとしたら、マイナンバーで紐付け一元管理された大量の国民データはどうなるのか。カードも、邪悪な侵略者に抵抗する「敵性」市民のあぶり出しに悪用される。マイナンバーのような国民背番号制を導入している北欧諸国などでは、自国が権威主義国家に踏みにじられ、背番号で管理された国民データが敵の手に落ちることを危惧している。有事対応で、データの瞬時破棄、バックアップを検討していると聞く。
 国民一人一人の広範なプライバシー/個人情報を、国家がマイナンバー、マイナ保険証で一元管理できるので便利だ、効率的だなどというのは、国家/国民安全保障ゼロの“平和ボケ”した発想だ。サイバー攻撃にも脆弱だ。マイナンバー、マイナICカード/マイナ保険証で紐付け一元化する危機管理なしの愚策は即やめないといけない。

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