「敬老の日」を迎えるに当たり、歳を重ねても生き生きと、安心して暮らしていくには、どんな社会保障が必要か―。佛教大学の長友薫輝准教授に、「人生100年時代」を見据えて、政府が2020年に閣議決定した「全世代型社会保障改革の方針」の問題点に触れながら、解説していただきました。
地域で安心し暮らせる 医療や介護など改革こそ
佛教大学准教授 長友 薫輝さん
長年、地域で商売され、地元のさまざまな活動に参加されている民商会員のみなさん、お元気にお過ごしのことと存じます。あらためて敬意を表します。コロナ禍にもかかわらず、地域で奮闘されている姿に、いつも感銘を受けています。
政府の「全世代型」は高齢者を「労働力」に
コロナ禍で、政府は「全世代型社会保障改革」という政策を着々と実行しつつあります(図)。社会保障という名称が付いていますが、改革のねらいは「労働力の確保」にあります。
すでに日本は人口減少が始まっています。人口が減り、労働力が減少するという事態が、財界等にとっては懸念材料となっており、そこで登場したのが、この政策です。私たちに対して「できるだけ長く働きなさい」「できるだけ医療や介護などの社会保障を利用しないようにしなさい」という内容となっています。社会保障費の抑制も図っています。
このように、全世代型社会保障改革は、労働力人口の減少を私たちができるだけ長く働くことで対応しよう、そして社会保障費の抑制をも図ろうという目的を持った政策です。ちなみに、政府が進める「副業の推進」も労働力確保の一環です。
このように、全世代型社会保障改革という政策は、私たちの「労働力」に主な関心がある内容となっていることがわかります。「労働力」にならない人々の切り捨てをも意味しています。
社会保障費の増額で地域の雇用生み出す
元気で暮らせる地域社会のためには、私たちの地域社会での仕事や生活を保障する、住み続ける権利を保障する、医療や介護などを利用しやすくする社会保障へと転換する必要があります。雇用や労働に関わる政策と連動しているのが社会保障です。社会保障は地域経済を循環させるためにも必要な政策です。そもそも社会保障は「全世代型社会保障改革」のように費用を抑制するのではなく、社会保障に予算を投じることによって、地域での雇用も生み出します。元気に地域で仕事をし続けることを可能にします。
例えば、コロナ禍で臨時的に実施されている、国民健康保険の傷病手当金の支給の恒久化・制度化の実現や、安心して暮らせる年金給付水準へと改善するなど、医療や介護、年金や雇用・労働に関わる諸施策を改革することで、私たちが地域で安心して暮らすことができる、そして住み続けることができる社会保障への転換が必要です。