インボイスはアニメーターつぶす 「実施中止へ声上げ続ける」|全国商工新聞

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アニメ「呪術廻戦」など担当 キャラクターデザイナー 西位 輝実さん

にしい・てるみ 1978年、大阪府出身。大阪デザイナー専門学校を卒業。スタジオコクピットを経て、フリーランスのアニメーターとして活躍。「輪るピングドラム」「ジョジョの奇妙な冒険第4部」などで、キャラクターデザイン、「呪術廻戦」では総作画監督を担当。

 多様なジャンルで毎年、数多くの作品が制作されているアニメーション。市場規模は、2兆4千億円以上に上ります。制作現場を支えるアニメーターは、7割がフリーランスと個人事業主。「消費税のインボイス制度が実施されると、アニメーターは、さらに食べていけなくなる」と声を上げるのは、キャラクターデザイナーの西位輝実さんです。2020年に大ヒットしたテレビアニメ「呪術廻戦」の総作画監督(4話から)を務めるなど、第一線で活躍しています。インボイス制度反対とともに、アニメーターの実態を告発し、働く環境の改善を求めています。

 「インボイスを発行するために、免税事業者のアニメーターは課税事業者になって消費税を払うか、免税事業者のままで消費税分の値引きをのみ込むか、選択が迫られる。若手アニメーターや、これからアニメーターを志す人たちをつぶすような制度は許さない」。西位さんは、インボイス制度への怒りをぶつけます。その怒りは消費税にも。今年も多額の消費税を払いました。「消費税は結局、法人税を引き下げるための肩代わりをしているだけ。社会保障には使われていない。要らないじゃん。免税点も3千万円に戻してほしい。税金は、もうかっているところから取るべき」と訴えます。

えぐい消費税額

 西位さんが「インボイス制度」という言葉を初めて耳にしたのは、2019年10月。税理士から「4年後、やばい制度が始まる。西位さんたちもダイレクトに、きつくなるよ」と言われました。調べると、アニメーターを直撃する内容でした。「そうはいっても、こんなひどい制度は始めんやろ」と考えていました。ところが、実施への動きは止まらず、昨年10月には、税務署でインボイス発行事業者の登録申請が始まりました。
 業界全体にインボイスの問題点は浸透せず、危機感を持った一部の若手には「自分たちの力ではどうしようもない」という空気が漂っていました。「自分のようなキャリアを持つ人間が声を上げなければ、実施中止の声は広がらない」。強い思いが湧き上がり、SNSを通じてインボイス反対の声を発信するようになりました。
 その声を見つけたライターの小泉なつみさんに誘われ、「STOP!インボイスの勉強会アニメ業界編」(3月13日)にスピーカーとして出演。アニメーターの働き方と、インボイス制度が業界に与える影響について話しました。
 勉強会で驚いたのは、年間200万円の収入で、20万円の経費があった場合、消費税の負担は16万円に上り、年収600万円では最低でも30万円の消費税を払わなければならないこと。「それは、えぐい。アニメーターは経費が少ないので、消費税額が大きくなる。いっそう食えなくなる」
 さらに膨大な事務負担の存在です。課税事業者は消費税の計算をする時、領収書を1枚1枚確認して、インボイスかどうか仕分けなければならないと知り、「まじですか?!」と思わず声が漏れました。「消費税を取られるために、面倒な計算を押し付けられ、仕事をする時間も奪われるなんて、おかしい。アニメーターは絵を描くこと以外、不得意な人や面倒くさがり屋も多く、確定申告もままならない人もいる。面倒くささを考えて免税事業者のままで、値引きをのんでしまう人も多くなる。今でもアニメーターの収入は低いのに、業界は一体どうなるのか…」。不安は一気に膨らみました。

新人は低賃金で

 アニメ制作は膨大な時間と手間が必要で、現場では大勢の人たちが役割を分担しながら制作を進めています。日本国内のアニメーター数は2800~4100人と推定され、フリーランスや個人事業主が7割を超えます。平均年収は約440万円。新人が最初に任せられる動画の仕事は125万円ほどで、時給換算で150~200円という低さです(図)。

「私の場合、20歳でアニメーターの仕事に就き、初めてもらった月給は2800円。線を引く練習する期間は研修で、それが終わっても5~6万円しかもらえず、アルバイトをしながら8万円くらいで生活してたかな。でも、好きなことをやって、お金がもらえたので、苦に感じなかったし、“普通”だと思っていた」と振り返ります。
 おかしさに気付いたのは2012年、先輩と一緒に同人誌を作るようになり、現金のやりとりが発生し、一人では会計処理ができず、税理士に相談した時です。「自分の働き方がフリーランスで、一人親方」と初めて知り、“普通”と思っていたアニメ業界の働き方が、一般社会とかけ離れていることに気付かされました。「アニメーターは源泉徴収され、還付金があるので、確定申告をしていたけれど、個人と仕事の銀行口座は一緒になって、ぐちゃぐちゃだった」と苦笑い。銀行口座を分けることなど、基本的なことを税理士から教わりました。
 「アニメ業界は“ムラ社会化”して、世間から孤立している。アニメーターは自分のことをフリーランスと思っていないし、確定申告をスルーしている若手もベテランもいる。新人の時から実務を身に付け、フリーランスの自覚を持って確定申告ができるようにしなければ、業界は良くならない」

待遇改善の道を

 確定申告期、SNSでは「確定申告のやり方が分からない」「誰に聞いたらいいの」などの声があふれ、西位さんは税理士やイベントを手掛ける仕事仲間と相談し、若手アニメーター向けの「ガチガチな確定申告の勉強会じゃなくて、飲み会がてらのフラットな集まり」を企画。15年から2年間、3回に分けて開催したところ、予想をはるかに超え、延べ300人ほどが参加しました。アニメーターが、同業者とのつながりを求めていると実感しました。
 19年12月には『アニメーターの仕事がわかる本』(玄光社)を出版。アニメーターがどんな働き方をしているのか、業界の問題を包み隠さず告発し、著書を通じて「フリーランスで働く以上、発注元が提示した条件を、そのままのんじゃいけない。『この納期は厳しい』『もう少しギャラを上げてほしい』と交渉し、月50万円稼ぐことを目標にしよう」と訴えました。
 アニメーターが、どうすれば食べていけるようになるか…。西位さんは待遇改善の道を探っています。「インボイス制度は、その道を阻み、アニメーターをますます苦境に追い込むもの。誰も幸せになれない。実施を中止させるため、私は声を上げ続ける」

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