直接支援と消費税減税を 政府は4月末までに「緊急経済対策」 岸田内閣 減税に触れず予備費5兆円で対応 補正予算組み抜本策を|全国商工新聞

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 岸田文雄首相は3月29日、ウクライナ侵略戦争の影響に伴う原油や原材料、食料などの物価高騰に対応するための「緊急経済対策」を4月末までに取りまとめるように閣僚懇談会で指示しました。①原油高対策②穀物・水産物高対策③中小企業支援④生活困窮者支援―の四つが柱。財源は主に、2022年度予算に計上された5兆円の新型コロナウイルス対策予備費を充てるとしています。
 しかし、与党内からも「予備費だけでは足りない」などの声が上がり、野党も「コロナ予備費を物価高騰対策に使うのは目的外使用」(立憲民主)、「予備費の範囲では全く不十分」(共産)などと批判。補正予算を改めて組むことを求めています。
 萩生田光一経済産業相は30日の衆院経済産業委員会で、コロナ禍の影響を受けた中小事業者を支援する事業復活支援金の対象期間が3月末で切れる下で「4月いっぱいで新たな支援策を考えなければならない。直接支援を残すかを含めて政府全体で検討する」と、笠井亮議員(共産)の質問に答弁しました。
 物価高騰が続けば、懸念されるのは、さらなる消費の落ち込みです。全ての商品の価格を一気に下げる、消費税減税が最も有効な経済対策です。
 しかし岸田首相は、田村智子参院議員(共産)が「消費税の緊急減税を検討すべきだ」と迫ったのに対し、破綻した“社会保障の財源”論を持ち出し「消費税については触れることを考えていない」と背を向けました(3月28日決算委員会)。
 欧州連合(EU)の欧州委員会は3月23日、ウクライナ侵略戦争によって食料品価格が上昇していることに対し、各加盟国の裁量で食料品などの付加価値税(消費税)を引き下げることを提案しています。世界では、付加価値税を採用している国の半数近くに当たる81の国と地域が減税を決断。日本でも消費税率の引き下げを求める国会議員が与野党合わせて約3割に広がり、地方議会でも「消費税減税」の意見書が採択されています。
 「今こそ消費税減税を」の声を大きく広げるときです。

オイルショック思い出す

埼玉・川口民商 Mさん(クリーニング)

 創業51年ですが、最近の物価高騰は1970年代の2度のオイルショックをほうふつさせます。ボイラーをたく灯油は、昨年1月の1リットル98円から3月は126円に。配送車のガソリン代は1リットル171円に跳ね上がり、電気代も心配です。
 乾燥剤やお客に渡すレストパック、ハンガーなどは卸が値上げを見越して見合った量と値段で確保してくれたので、今は助かっています。
 コロナ禍で売り上げが半分以上減り、国の持続化給付金をはじめ、県や市の支援金でしのいできました。諸物価高騰が報じられると、クリーニングに出す人もぱったり減りました。お客も、ほとんどが年金生活なので暮らしも大変でしょう。ウクライナ侵略の影響で今後、どれだけ高騰するのか心配です。
 私たちは、自分らが食べられる分だけ稼げればいい。消費税も3%の時から、頂いていません。岸田首相には持続化給付金並みの支援制度や消費税率の引き下げをぜひ、お願いしたいですね。

経済停滞の物価高回避へ 資金繰りや直接支援、価格転嫁の監視を

桜美林大学教授 藤田 実さん

 昨年秋頃から食品の値上げやガソリン価格の上昇が続いていたが、さらに今年に入ると、さまざまな商品の値上げが発表されている。その原因の一つであるロシアのウクライナ侵略に対する経済制裁は、戦争を止めるためにも甘受しなければならないが、現在のガソリン価格の上昇は第3次オイルショックが懸念されるほどの事態である。

需要拡大に対し供給追いつかず

 原油価格は元々、昨年から高騰し続けてきたが、それはコロナ禍後の経済回復による需要拡大に対して、産油国が小幅な増産にとどめてきたことに原因があった。産油国が増産に応じなかったのは、産油国と原油市場を牛耳る欧米のオイルメジャーにとって価格高騰は収入増でもあるので、増産に踏み切るインセンティブ(誘因)が大きくはなかったからである。そこに世界第3位の産油国でもあるロシアがウクライナ侵略戦争を始めたため、ロシアからの原油輸出が滞るのではないかという供給不安も出てきて、価格高騰に拍車がかかった。
 ロシアによるウクライナ侵略戦争の影響は、原油だけではなく、両国は希少金属や鉱物資源に富んでいるほか、小麦の一大生産地であるため、今後の供給不安もあり、さまざまな資源価格の高騰に及んでいる。
 半導体不足に関しては、ウクライナ情勢とは直接関係ないが、昨年から深刻化し、自動車や家電など、さまざまな製品の生産の停滞を招いている。これはリモートワークの増大による情報通信機器に対する需要や経済回復に伴う自動車などの需要が拡大したが、半導体の生産は韓国、台湾企業を中心とする寡占体制で、しかも大規模な生産設備を必要とするため、需要拡大に相応した供給拡大ができないという事情がある。
 このように、コロナ禍からの経済回復や国際的な政治経済情勢の激変により、需要が拡大する一方で、供給不安が増大したことで、世界的にさまざまな商品価格が上昇し、激しいインフレの兆しが見えている。特に日本では、コロナ禍後の経済も欧米諸国に比べて停滞基調が続いているだけに、経済は停滞する一方で物価が上昇するスタグフレーションに陥る危険性が出てきている。

消費支出が減り 設備投資停滞も

 スタグフレーションが進行すると、労働者の賃金が停滞しているのに物価が上がるので、家計では消費支出を減らさざるを得なくなり、消費財の生産も停滞することになる。消費財の生産停滞は設備投資の停滞も招くので、経済はさらに落ち込んでいく。日本のように経済停滞が長期化している状況では、スタグフレーションに陥る可能性は強くなっている。
 スタグフレーションの下で苦しむのは、高齢者や非正規労働者などの低所得層と価格転嫁が困難な中小企業、業者である。低所得層に関しては、物価上昇に見合う特別な給付金の支給が必要である。仕入れコストの上昇などで売り上げや利益が減少している中小企業や業者に対しては、資金繰り支援の他、価格転嫁しやすいように親企業や大企業の取引の監視、企業維持のための補助金支給などの直接的支援も必要だろう。
 国民生活を守るためには政策を総動員して、スタグフレーションに陥らないようにすることが重要である。

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