元静岡大学教授・税理士 湖東 京至さんが推算
トヨタ自動車をはじめ日本を代表する輸出大企業10社に、2020年度だけで1兆2千億円余りの消費税が還付―。消費税10%への増税を国民・中小業者に押し付け、コロナ禍で売り上げが激減している中小業者は「消費税が払えない」と悲鳴を上げる一方で、消費税を1円も納めていない輸出大企業に莫大な消費税が還付されている実態が明らかになりました。コロナ禍で売り上げが減っても、還付金は10社合計で1810億円も増えています。推算した湖東京至・元静岡大学教授(税理士)が実態を告発します。
コロナ禍で中小事業者の売り上げは大幅に減り、赤字で法人税や所得税は納めなくてもよいのに、消費税だけは納めなくてはなりません。大企業のように価格に100%転嫁できて、消費税を“預り金”にできればいいけれど、そんな余裕はとてもありません。税率が10%に上がったため、納税額は増えています。消費税がなかったら、どんなに商売がスムーズにいくか、消費税がなかった頃が懐かしいですね。
売り上げ減少でも還付金は軒並み増
一方、トヨタなど輸出大企業は消費税の税率が上がっても痛くもかゆくもありません。それどころか、世界的な景気後退によって売り上げは減少しているにもかかわらず、消費税の還付金は増えているのです。
例えば、トヨタ自動車は2年前(2019年3月期)の売り上げが12兆6千億円でしたが、今年(21年3月期)の売り上げは11兆7千億円に下がっています。でも、消費税の還付金は2年前(税率8%)が3683億円だったのに、今年(税率10%)は4578億円に増えています(表1)。増えた理由は明らかに税率引き上げによるものです。ホンダや日産、マツダ、SUBARUなどの自動車メーカーも軒並み売り上げを減らしていますが、還付金は軒並み増えています。
税率0%の適用で納税せずに戻され
消費税を1円も納税せず、還付金がもらえるのはどうしてでしょうか。その理由は、輸出売り上げに0%という税率が適用されているからです。私たちが知っている消費税の税率は10%(軽減税率は8%)ですが、輸出売り上げに限り0%という超軽減税率を使うのです。輸出企業が納める消費税の計算は、売り上げの消費税(輸出売上高×0%)から仕入れ等に含まれているとされる消費税分を差し引く仕組みですから、その仕入れの消費税分が還付金としてもらえることになるのです。
19年4月から20年3月までの1年間の消費税の還付金額は約6兆円に上ります(国税庁統計年報)。また同じ期間、還付金が多くて消費税の税収が赤字になっている税務署が11あります(表2)。赤字税務署の第1位は愛知県の豊田税務署で4073億円のマイナス。豊田税務署管内にはトヨタ自動車の本社があり、同社への還付金が実際に4073億円以上あることを示しています。赤字税務署にはいずれも輸出巨大企業の本社があり、その管内で消費税を納めた中小事業者の納税額を上回るため赤字になるわけです。
他人が納めた税が「横取り」される
では、具体的にトヨタ自動車の還付金はどう計算されるのか見てみましょう。下の図をご覧ください。
計算で示したように、トヨタの年間還付金は4578億円になります。この計算にはいくつかの推定がありますが、実際の還付金額と大きく違っていない証拠を示しましょう。表2にある豊田税務署の赤字額は4073億円となっていますが、その内訳は還付金額が4730億円、徴収税額が657億円、差し引き4073億円になります。還付金額4730億円のうち、その90%がトヨタに対する還付金だとすれば、トヨタへの還付金は4257億円となります。この額は19年度のもので1年前のものですから、計算した20年度の4578億円とは一致しませんが、大きな違いはないといえましょう。
税金の還付とは、例えば年末調整で税金が返ってくるときのように、自分が税金を納め過ぎたとき還付してもらうことをいいます。消費税の還付金は、下請けや仕入れ先が税務署に納めた消費税分を、自分が納めたものとみなして返してもらうのです。これはいわば「横取り」です。どうしても還付したいというなら、実際に税務署に納めた下請けや仕入れ先に還付すべきです。一方は常に納税、一方は常に還付。おかしな仕組みで、これが格差社会を招くのです。
インボイス実施で制度を正当化させ
政府はいま、2023年10月から消費税のインボイス制度を実施し、小規模事業者にまで事業者登録番号をつけ、消費税の課税事業者に巻き込もうとしています。理由の一つが、輸出還付金制度をもっともらしく見せるためなのです。
事業者が現在行っている消費税の仕入税額控除の計算は帳簿方式といって、帳簿に記帳された仕入れ等に基づいて算出します。この仕組みだと、免税事業者や消費者からの仕入れ等も控除の対象になります。これでは輸出還付金の計算がアバウトになり、国際社会で通用しません。輸出還付金額の正確性を担保するために、1枚1枚の請求書や領収書に消費税の課税事業者を証明する登録番号をつけ、番号のある請求書・領収書しか控除対象として認めないというのです。税率が10%に引き上げられ、さらにヨーロッパ並みの高い税率にするためには、インボイス制度の実施が欠かせないというわけです。
そのため、番号をもらえない免税事業者は親会社との取引を断られるか、課税事業者になって消費税を納めるか、いずれかの選択を迫られます。インボイス制度は自由な経済活動を制限し、税率引き上げの下地となるものです。税率引き下げのためにも、インボイス制度の実施を中止させなければなりません。