再生エネルギー活用で循環経済の構築を
世界各地で、異常な豪雨、台風、猛暑、森林火災、干ばつ、海面上昇などが大問題になっています。日本でも毎年のように豪雨災害が全国各地で頻発しています。いま世界で猛威を振るう新型コロナウイルスなど新しい感染症の出現の背景にも、森林破壊をはじめとした環境破壊、地球温暖化があるといわれています。世界の平均気温は既に産業革命前より1.1~1.2度上昇しており、破局的な気候変動を回避するためには、国連IPCC「1.5度特別報告書」は「2030年までに大気中への温室効果ガスの排出を2010年比で45%削減し、2050年までに実質ゼロを達成」する必要を強調します。「五つの緊急要求」の四つ目「新自由主義路線を転換する」は、この問題を真正面から取り上げています。
コロナで落ち込んだ経済を立て直すに当たって、EUは「グリーン・リカバリー(緑の復興)」を掲げ、「次世代EU」と名付けた90兆円規模の経済復興策で、30年までに温室効果ガス55%削減を掲げます。アメリカのバイデン政権も再エネ・省エネ投資の雇用拡大「グリーンニューディール」で、4年間で210兆円の投資を進めます。35年までには温室効果ガスゼロにするという野心的目標です。
世界はこれまでの大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済から、ポストコロナを脱炭素の循環型社会へと転換する契機にしようと動いています。
脱炭素社会は可能
日本のエネルギー・ミックスや温暖化問題を専門とする研究者などで構成する「未来のためのエネルギー転換研究グループ」は「エネルギー消費を20~40%減らし、再生可能エネルギーで電力の40~50%程度をまかなえば、CO2を50~60%程度削減できる」とします。
「省エネ」と「再生エネの利活用の促進」で50%削減は可能というのが科学者の一致した見解です。「省エネ」のポイントは、電力をはじめ大規模事業所の脱炭素化を図ることです。日本におけるCO2の排出量(エネルギー転換)は発電所39%、産業25%と合計で全体の6割超を占めます。
しかも「発電所などでも有効に使われているエネルギーは3分の1で、残りは熱として捨てている」と、省エネの可能性の大きいことを専門家は指摘します(図3)。まずは電力業界など大企業の規制へと動かすことです。
全体からすればウエートは低いとはいえ、家庭での省エネの余地も無視できません。「低酸素社会戦略センター」によると、「省エネ対策をすると家庭のエネルギー需要は26%(4分の1程度)まで減らせる」と解析します(図4)。
太陽光発電による電気代の節約、エネルギー効率の良いエアコン、断熱材、ヒートポンプ給湯、二重窓など、どれもが中小業者が担い得る事業分野で、今では「住宅グリーン化事業」で補助なども行われています。
省エネは、企業でも家庭でも多くは3~4年、建物など耐用年数の長いものでも10年で投資した省エネ費用の回収ができ、その後はエネルギー消費減による節約効果が続く点も重要です。事業所ではコスト削減が図れます。
雇用創出効果も
日本における再生可能エネルギーの潜在量は、水力、風力、太陽光、バイオマスなど合計で、現在の国内電力需要の5倍といわれます。2030年までに50%(現状の2.5倍)、50年までに100%にすることは十分可能です。再生可能エネルギーの導入が進むほど価格は下がっています。
経済産業省は7月、30年時点の電源別発電コストの最新試算結果を公表しました。それによると、太陽光発電(事業用)のKW時当たりの発電コストは8円台前半まで下がり、原子力発電のコストよりも約3割安くなります。CO2を最も多く排出する石炭火力発電は太陽光より約4割高です。経産省が、太陽光発電コストを原発より安くなることを認めたのは今回が初めて。しかし、これを踏まえて同省がまとめた「第6次エネルギー基本計画」は「再エネ36~38%、原子力20~22%、LNG20%、石炭19%」としているように、原発の再稼働を含めて世界の流れからかけ離れたものです(図5)。
再生エネの潜在的可能性をくみ尽くす再生エネへの大転換は急務です。しかも、地域資源としての性格上、どれもが小規模分散で利活用に携わる中小事業者も少なくありません。
未来のためのエネルギー転換研究グループは「2030年までに、エネルギー需要を約40%削減する省エネと、再生可能エネルギーで電力の44%をまかなうエネルギー転換を実施すれば、年間254万人の雇用が新たに創出され、エネルギー転換で影響を受ける産業分野での現在の雇用者20万人をはるかに上回る。投資額は、2030年までの累計で202兆円となり、GDPを205兆円押し上げ、化石燃料の輸入削減額は52兆円になる」と試算し、大きな経済効果を上げると述べます。
2010年に全国中小業者団体連絡会が視察したオーストリアのギッシング市では、再生エネの利活用が進められることにより、これまで化石燃料の購入のための地域外への資金流出が止められただけでなく、再生エネによる経済の地域循環により、雇用創出をはじめ大きな経済効果を生んでいました。ドイツの「シュタットベルケ」は自治体の第三セクターですが、地域資源である分散的エネルギーの公益的観点からの利活用を進め、地域の発展に大きく貢献しています。日本でも福岡県みやま市、山形市、岡山県真庭市などで取り組みが進められ、地域の活性化にも貢献しています。
「新自由主義路線を転換する」で挙げられた「①中小企業淘汰を許さない」「②循環型地域経済をつくる」「③エネルギー政策を転換する」の三つの要求は切り離し難く結び付いています。気候危機への対応には「我が亡き後に洪水よ来たれ」という新自由主義路線の転換が不可欠です。
コロナ危機での2021年衆院総選挙を、もうけ本位の新自由主義路線から持続可能な経済社会へと向かう契機にしていく必要があります。