圧力でなく支援を 東京都内業者の声
休業要請に従わず、酒を出す飲食店との酒類取引を停止せよ―。こんな無法な圧力を酒販店にかけた菅政権。撤回に追い込まれると一転、「酒類販売事業者に対する支援」を打ち出しました。酒販店の現状と、一連の騒動への思いは…。
「撤回は当然」
東京都板橋区で酒店を営む、有限会社・𠮷徳屋の𠮷田隆さんは「飲食店との取引は3軒があるだけです。業務卸専門業者は、私どもの仕入れ値より安い価格を出してくるので、まちの酒屋は取引先を失ってきました。それでも長年の信頼関係で取引いただいている顧客が残っています。今回の『事務連絡』は、そのような信頼関係を覆せと迫るもので、組合の集まりで『これはひどいよ』と話題になりました」と振り返ります。
「撤回は当然ですが、酒屋は本当に疲弊している。会合を開くと『今度の支援金はいつ出るの』と真っ先に話題に出る」と話します。
𠮷徳屋も、1~3月の売り上げは50%減になり、先ごろ、3カ月分の支援金60万円を受け、一息つきましたが、ぎりぎりのラインで、支援金の申請すらできない店舗も多くあります。
店は一角に立ち飲みコーナーを設け、地域の人々の憩いの場となっていましたが、コロナ禍で閉鎖したままです。
「支援金は一律だが、飲食店には売り上げに応じた、日額幾らの協力金。ワクチンも遅れている。今の政府のやることには、説明のつかないことが多いように思う」と嘆きます。
壁には「おひとり様3杯まで」「美味しく呑むための7か条」などの張り紙が。「お酒はおいしく楽しく飲んでもらいたい。その日が待ち遠しい」と期待を込めます。
「不信積もる」
新宿区で居酒屋「千草」を営む杉本茂さんは、昨年4月からの1年を振り返りながら、菅政権のコロナ対応に危機感を募らせています。
「不信感が積もりに積もって、何を言おうと伝わってこない。菅内閣はコロナ収束を図るための国民の協力を得られないのではないか」と語ります。
「大きな赤字を出さないで、収束まで持ちこたえられればと頑張っているが、都合の悪いことはごまかし隠すし、黒を白と言いくるめる。従わないものには圧力までかける。もう、誰も言うことなど聞かなくなっている」と政治不信の高まりを危惧します。
支援拡充もなお不十分 業種広げて要件緩和を
政府は7月14日、新型コロナの感染拡大防止による休業要請などの影響で経営が悪化している酒類の販売事業者に対し、支援を拡充すると発表しました(下の表1)。
“7月および8月においては、新たに2カ月連続で売り上げが15%以上減少した場合、単月の売り上げが30%以上減少した場合と同様に扱い、最大個人で10万円、法人で20万円の支援を行う”などです。
都道府県がすでに独自の判断で金額の上乗せや横出しの支援を行っています(表2)。
加藤勝信官房長官は“緊急事態宣言などにより、酒類販売事業者の厳しい経営環境が長期化することを踏まえた”と説明しましたが、新たな支援策は、酒類の卸業者らに対し、酒の提供を続ける飲食店との取引を停止するよう圧力をかけていた問題で抗議が相次いだことを受けた、その場びぼうしのぎの弥縫策ではないかと疑わせるものです。
休業要請などに応じる飲食店には売上高に応じて1日当たり4万円~20万円の協力金が支給されますが(表3)、飲食店の休業や時短営業により間接的な影響を受ける酒店や資材納入などの取引業者などに対しては、一律の月次支援金(ひと月上限個人10万円、法人20万円)が支給されるだけです。
政府が行うべきは、コロナ収束へ向けた科学的な対策と、この間の飲食店の休業や時短営業、外出自粛要請などで、店を続けられるかどうかの瀬戸際に立たされる全ての業者への公正で十分、迅速な支援金の給付です。
強権を振りかざし、コロナ対応への国民の不信を深めれば、事態の長期化は避けられません。