「ペット業界の声が行政に届いた」「過度な規制が先延ばしされ、本当に良かった」-。ペットショップやブリーダー(繁殖業者)などが飼養管理できる犬や猫に上限を設けた環境省令の完全施行が2024年6月に3年間、先延ばしされました。12月25日に開かれた中央環境審議会動物愛護部会で環境省が明らかにしたものです。
飼養管理数の規制導入は19年6月に成立した改正動物愛護法で定められたもの。一部業者の劣悪な飼育状況を改善するため、省令改正で飼養管理できる犬や猫を制限し、6月からの施行をめざしていました。
昨年7月に示された省令改正案(飼養管理基準案)は、ブリーダーやペットショップらが飼養できる頭数を従事者1人当たりに対して繁殖犬15頭、繁殖猫25頭、販売犬20頭、販売猫30頭を上限としていました。これに対してペット業界から「13万匹以上のペットが行き場を失う」「犬猫の殺処分が増える」「業者が廃業に追い込まれる」など反対の声が広がりました。
ペットショップを経営する民主商工会(民商)会員からも「経営が成り立たない」などの声が上がり、全国商工団体連合会(全商連)が実施した事業者アンケートでは、約6割の事業者が従業員増員を迫られて人件費が高騰するか、飼養している犬猫を大幅に手放さなければならなくなるという結果が示されました。
全商連は飼養管理基準の一方的な強制によって、善良な中小規模のブリーダーやペットショップなどの経営権が侵害されないよう環境省に要望(9月17日)。①優良事業者の「飼養頭数の上限値緩和」など経営維持策②基準施行に伴う費用の補助③営業損失の補償④十分な準備期間の設定と相談体制の確立-を求めていました。
また、「ペットパーク流通協会」が中小・小規模事業者の経営継続を求めた環境省への要請を支援していました。
環境省は、今年6月からは繁殖用犬25頭、猫35頭、販売犬30頭、猫40頭と上限を緩め、その後は毎年5頭ずつ減らすとしています。
殺処分ゼロと経営の両立を
東大阪東部民商 辻澤久美子さん
6月施行だった省令が3年間、先延ばしになったことは、本当に良かったと思います。
ペットショップを経営して18年目になります。ペット販売だけでなく、ブリーダーやホテル、トリミングも行っています。
繁殖犬が45匹います。従事者は私と娘の2人ですので、省令が6月施行であれば30匹しか飼育できず、15匹を処分しなければなりませんでした。
悪質なブリーダーをなくすための飼養規制は必要なことだと思います。しかし、優良事業者にも一律に飼養管理規制を設けることに、疑問を感じます。省令で定めた飼養管理数では、中・小規模事業者の経営は成り立ちません。ペットショップがなくなって、一番困るのはお客さまではないでしょうか。
「動物の殺処分ゼロ」は私たちも願っていることです。優良事業者の線引きは難しいと思いますが、環境省は、優良事業者の声をもっと聞き、経営が継続できるようにしてほしいと願っています。
上限規制 厳しすぎる
ペットパーク流通協、関東・B&Bペットパーク 会長 上原 勝三さん
業者が飼育できる犬猫の飼養管理数上限を示した省令案についてのパブリックコメントには、ペット業界から「規制が厳しすぎる」「準備期間を設けてほしい」など15万通を超える意見が寄せられました。
省令の完全施行が3年間先送りされたことは、われわれの声が環境省にも届いたのだと思います。環境省への要請では、全商連の皆さんに力を貸していただき、感謝しています。
しかし、省令の完全施行が先延ばしになったといえ、飼養数の上限は厳しすぎます。繁殖犬であれば、15頭のうち、実際に子犬を生んでくれる母犬は6~7匹です。1匹の母犬から生まれる子犬は、平均3匹に満たないといわれていますので、全部で18~21匹。これでは営業は成り立ちません。
これから3年間、業界として省令を守りながら、厳しい飼養管理規制の問題点を指摘し、省令の改善を求めたいと思っています。
【関連記事】商工新聞3466号7月12日付
ペット業者の資金繰り支援 動物愛護管理法 改正受け 環境省が制度紹介
環境省は先ごろ、6月から施行された動物愛護管理法の犬猫飼養管理基準を適用する際に、動物取扱業者が活用できる補助金と融資制度を紹介するチラシを業界団体や自治体に2万枚ずつ送付。ホームページ上にも公開しました。
ブリーダー、ペットショップ、第二種動物取扱業者が活用できる補助金制度として、小規模企業持続化補助金(一般型)を紹介。店舗の改装などにかかった費用の3分の2(上限50万円)の補助を受けられます。
ブリーダーが活用できる融資制度は、日本政策金融公庫の「農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)」「経営体育成強化資金」などを紹介。民間金融機関などが行う「農業近代化資金」も案内し、「農業信用保証保険制度」の活用を呼び掛けています(表)。
第二種動物取扱業者
営利性がなくても、人の住居部分と区分できる飼養施設を持ち、譲渡・展示・訓練など、一定頭数以上の動物の取り扱いをしようとするもの。動物愛護団体の動物保護シェルター、公園等での展示などが当たります。