新型コロナウイルス感染症拡大で、世界経済は低迷が続いています。景気刺激策として各国政府が税制上の支援措置を打ち出す中、注目されるのは、中小企業対策としても位置付けられる付加価値税(日本の消費税に相当)の減免です。湖東京至・元静岡大学教授(税理士)の調査によるとドイツ、ノルウェー、韓国、中国、オーストリア、ベルギー、ギリシャ、キプロス、コロンビア、ブルガリアが付加価値税を減免していることが明らかになりました。
元静岡大学教授税理士 湖東京至さん
EU(欧州連合)加盟国は、付加価値税をEU統一税制として位置付けています。ドイツが税率を引き下げたのは、OECD(経済協力開発機構)のアンヘル・グリア事務総長が「一時的な付加価値税の減税」を企業支援策として提唱したためで、EU委員会もドイツの税率引き下げを歓迎しているといわれています。
中小業者支援し消費と内需喚起
言うまでもなく消費税減税は事業者への給付金と違い、中間企業への手数料もなければ、振り込みの手間もなく、最も簡素で公平で効率的なやり方です。コロナ禍で収入が減っている国民にとって消費税減税は、毎日の買い物の度に恩恵が生まれます。消費を喚起させ、内需を支えるためにも、今必要な経済対策です。
日本政府は「消費税は預り金だから、事業者は預かったお金を納めるだけだ」と言いますが、これは消費税の本質・実態を無視した説明です。消費税を納めるのは事業者ですから、預かろうと預かるまいと納税しなくてはなりません。
実際、多くの中小事業者は赤字でも消費税の納税を迫られ、10%増税の下で廃業に追い込まれています。それだけに、消費税減税は中小事業者の支援策として有効なのです。
中国・湖北省と韓国は納税免除
ドイツは4月、レストランなど外食への標準税率19%を、軽減税率7%に引き下げました。この措置だけでも休業によって大打撃を受けた外食産業には大変な支援策です。
さらにメルケル首相は標準税率19%を16%に引き下げるとともに、軽減税率7%を5%に引き下げました(7月1から12月31日まで)。ドイツ経済研究所によると、今回の措置で1世帯当たり1カ月で最大116ユーロ、日本円でおよそ1万4千円余り家計負担が減るということです。メルケル首相は「延長はしない」と言っているようですが、経済がV字回復しなければ延長せざるを得ないでしょう。
ノルウェーは軽減税率12%を8%に引き下げました。ノルウェーは標準税率25%、食料品15%、軽減税率12%の三つの税率があります。軽減税率12%は電車・バス・タクシー、ホテルなどの宿泊費、公共放送料金、美術館・博物館の入館料、スポーツ観戦、遊園地の入場料などに適用されていました。軽減税率は18年1月から12%に引き上げましたが、コロナ対策で8%に引き下げました。
韓国は簡易課税制度が適用されている、年間売上高6千万ウォン(540万円)以下の事業者の付加価値税納税を、21年12月分まで免除すると発表(2月28日)。対象事業者数はおよそ90万者で、事業者一人当たりの減税額は毎年20万ウォン(1万8千円)~80万ウォン(7万2千円)になるといいます。
韓国の簡易課税による納税額の計算は、日本の仕組みと全く違って、10%(標準税率)を掛けた売上額からさまざまな控除が引けるため、納税額はかなり少なくなります。
中国の付加価値税は標準税率13%で、9%と6%の軽減税率があります。中国政府は中小事業者について、標準税率を3%に、軽減税率を1%に引き下げ(湖北省以外)、湖北省では付加価値税納税額を全額免除することを発表しました(2月26日)。3月~5月までの3カ月間限定です。
オーストリアやベルギー、ギリシャ、キプロス、コロンビア、ブルガリアでも期限や対象を限っていますが、付加価値税を引き下げています(表参照)。以上のように諸外国は、コロナ禍で大打撃を受けた中小事業者の支援策として、付加価値税を減税しています。
消費税廃止したマレーシア好況
2018年6月から消費税(GST)を0%にし、実質的に廃止したマレーシアでは景気が上向き、同年年後半から法人税や所得税などの直接税が前年度比11%も伸びました。法人税収は過去最高額になり、GDP(国内総生産)も予想を上回り、国営石油公社からの税金や受取配当金も増え、消費税を廃止した後の代わりの財源の心配はなくなりました。
法人税や所得税の最高税率の引き上げも税収増につながり、不動産譲渡益への課税強化や清涼飲料水への物品税、飛行機で出国する旅行者へ出国税を課す、カジノのライセンス料やカジノ税を引き上げるなどの税収増を図り、消費税に代わる財源を十分に確保しました。
歳出では、高速鉄道などの大型プロジェクトの延期など、前政権時代の無駄な歳出予算を削りました。
補正予算を組み消費税の減税を
日本は昨年10月から消費税が10%に引き上げられました。安倍首相は「リーマンショック級の出来事が起こらない限り、消費税を引き上げる」と言っていました。今まさにリーマンショック以上のコロナ禍が起こっているわけですから、消費税を5%に戻す、あるいは時限的にでもゼロ%にする必要があります。
景気が急激に減速し、第1次、第2次補正予算では不十分です。第3次補正予算で消費税減税を打ち出さなければ、日本経済は決して回復することはできません。