雇用調整助成金は、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、従業員に対して一時的に休業、教育訓練または出向を行い、賃金を補償しつつ雇い続けた場合に受給できる助成金です。リーマンショック、その後は東日本大震災の影響で売り上げが減った多くの会社がこの助成金を受給し、雇用を維持しました。今般のコロナウイルス対策では、特例措置が拡充されています。そのポイントを、社会保険労務士の加藤深雪さんに解説してもらいました。
社会保険労務士 加藤深雪さんが解説
新型コロナウイルスは、日を増すごとに経済的な悪影響が拡大し、先が見えないばかりか、事業主や従業員、顧客に陽性が出て、営業休止せざるを得ないところも出てきています。
そもそも、事業主は、会社都合で従業員を休業させた場合に平均賃金の6割以上を補償する義務を負っています。
例えば、コロナウイルスの影響で、資材が入ってこず、製造ができないとか、旅行者の激減で間引き営業させざるを得ないとか、自治体の要請で外出自粛が出て、店休するなどの場合に、従業員に賃金の6割以上を補償して計画的に休業させた場合に受給できるのが雇用調整助成金です。
一部報道では、従業員の給与の9割が戻ってくると誤解させるような記載が見られますが、日額で最高8330円です。計算方法は異なるので、注意が必要です。
特例措置を拡大
ここ数週間での感染拡大を受け、厚生労働省は3月28日に雇用調整助成金のコロナウイルスにかかわる特例を、左下の表のようにさらに拡大しました。
この拡充で、飲食店で学生アルバイトが多いとか、旅館業で雇用保険に入っていないパート従業員が多いという事業主も支給の対象びなりました。6月30日までは計画届と申請書を同時に出せるので、急な外出自粛要請で前日に休みを決めて休ませたという場合も対象になります。
受給金額は、例えば、前年の雇用保険被保険者の平均賃金日額が1万2千円で、休業手当として従業員に6割を支給した場合の助成金は下記の計算で行います。
1万2千円×0.6×0.9=6480円
仮に、従業員5人を月に10日ずつ休ませた場合、50日×6480円=32万4千円
なります。また、支給申請をしてから入金までには2カ月程度かかるので、資金繰りが厳しい会社はタイムラグを見込む必要があります。
事後提出も可に
計画届と支給申請を同時にできるというのは、雇用調整助成金の申請では初めてのことです。急な外出自粛要請で計画が立てられないまま休業を命じた場合や、人の往来が全くないために急きょ明日以降は休業を命ずることにしたというようなケースでも、事後に休業した日程を計画届に書けば支給対象になります。
これは、中小零細の企業にとってはとても有利なことです。ただ、これによって不正受給の増加も懸念されるところです。
申請には添付書類の賃金台帳やタイムカードにより、休業と賃金支給の事実確認を行いますので、いわゆる開店休業のような手待ち時間を労働時間とみなさず、休業扱いとして助成金を申請することはできません。事後に、助成金の調査が行われることもありますので、注意が必要です。
さらに見直しも
特例の拡充は毎週行われ、かつニーズが増えてきていることから、助成金の申請受付をするハローワークは、電話がつながらない状況になってきています。
今後さらなる拡充で、①時間単位の休業は全員を一斉にしなければならないが、この要件を緩和する②休業を行いつつ、残業がある場合は、助成金額を相殺していたが、これを停止③支給迅速化のための事務処理体制の強化④手続きの簡素化-が行われる予定です。
コロナ禍の緊急事態にあって、中小企業の存続は日本経済にとって、また、日本で働く国民にとって最優先すべきことだと思います。
融資を受けることや税・社会保険料の納付猶予を受けることはもちろん、従業員を雇いながら、不安を抱えている事業主は、図1の項目をチェックして、まずは受給できるかどうかの確認を。要件を満たせば、図2のフローを参考にして、申請をしてみてください。