営業支援待ったなし 直ちに給付金支給を|全国商工新聞

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自粛に伴う補償一体で

緊急経済対策の内容と問題点

 安倍晋三首相は16日、「1人一律10万円の給付を行う方向」での検討を表明しました。閣議決定していた補正予算案の審議直前に、その中心部分を与党がひっくり返すという前代未聞の事態になっています。
 減収世帯への「1世帯30万円」の給付金は、「条件や基準が複雑」との批判が噴出したにもかかわらず強行しようとしましたが、高まる国民の怒りに押され修正を余儀なくされました。
 全国商工団体連合会(全商連)は「新型コロナに対応した緊急経済対策への要望」(4月8日)で「1世帯30万円の『生活支援臨時給付金』は1人10万円とし無条件で速やかに給付すること」を求めてきました。実現したことは大きな成果です。
 しかし、政府は「休業要請などによって直接・間接の損失を受けている全ての事業者に対する補償を」という声には応えようとしていません。資金繰りなど「待ったなし」の危機感を募らせる中小企業・小規模事業者の緊急切実な声にスピード感を持って応えていく補正予算にすることが求められます。
 政府の緊急経済対策の内容と問題点、全商連の要望のポイントを紹介します。

支給の迅速化が課題 持続化給付金

外出自粛の呼び掛けや訪日外国人客の激減の影響で、各地の観光地や繁華街から人影が消えています=東京・浅草の仲見世

 売上激減など小企業者が直面する危機を乗り切るため、売り上げが半減した個人事業主に最大100万円、中小企業に200万円を限度に「持続化給付金」を支給することが盛り込まれています。

対象は業者の4割

 「総額は2兆3000億円で、支給先は約130万事業者」(「日経」4月8日付)と報じられていますが、357万中小企業者の4割しか対象になりません。
 金額も個々の事業所の損失・減収分をカバーするものとはなっていません。
 要件とされる「売り上げ半減」は、「前年同月と比べ5割以上減があった月があれば対象になる」とされています。
 例えば、事例1=居酒屋A(個人事業主・前年の総売上360万円・月平均30万円)のケース。今年の3月の売り上げが15万円に半減した場合を例にとると、以下のようになります。
 360万円―(15万円×12カ月)=180万円
年間に換算した計算上の損失は180万円ですが、給付金は100万円となり、80万円がカバーされないことになります。
 居酒屋Aの売り上げが実際には、3月は15万円、4月は自粛したためゼロ、5月もゼロ、6月に20万円に、7月に30万円、その後も順調に回復した場合。損失は75万円に対し、給付金は100万円となり損失は一応カバーされます。
 事例Ⅱ=居酒屋B(個人事業主・前年の総売上600万円・月平均50万円)のケース。3月の売り上げが半減。その後、4月、5月はゼロ、6月に40万円に、7月に50万円に回復し、その後も維持された場合で考えます。
 損失は135万円ですが、給付金は100万円で、被害はカバーされません。
 「持続化給付金」は、緊急事態が2、3カ月で短期間に収束し、Ⅴ字回復した場合が前提の制度設計です。
 売上高が半減したことを証明する書類は、事業者が自ら作成する必要があります。売上台帳や現金出納帳などで証明することが想定されますが、事業者にとっては煩雑で手間のかかるものです。オンライン申請もできるとのことですが、高齢の多くの事業者にとってはなじめるものではありません。16日には緊急事態宣言が全国に拡大されました。地代・家賃も高く、生活費にも事欠くという事業者も多いだけに、スピードが問題です。

批判受け1人10万円 生活支援臨時給付金

 安倍首相は16日、国民1人当たり10万円の現金を一律給付すると発表しました。これまでの世帯向け「生活支援臨時給付金」30万円は、「条件や基準が複雑」との批判を受け、総務省は10日、支給対象となる世帯主の月収の基準を全国で統一する修正案を提出。世帯主の収入しか考慮されないなど激しい批判を受け、「世帯主」以外の減収も考慮すると再度軌道を表明していました。
 しかし、与党内からも分かりにくいとの指摘や迅速な対応を求める声が上がるなか、ついに補正予算の組み替えという異例の事態に追い込まれました。

条件緩和し給付継続を 全商連の緊急要望

 全国商工団体連合会(全商連)が8日に発表した「2020年度補正予算・新型コロナに対応した緊急経済対策への要望」は、こうした業者の願いに応えるものだと、窮状に立つ中小業者から期待を集めています。
 ポイントは、「持続化給付金」について、「半減」としている「売上減少条件の緩和」を求めていることです。さらに「自粛要請」による「休業」や「時短営業」による損失が給付金を上回る場合については、損失補償として給付金の支給を継続することを求めていることです。一回きりの給付金では、休業を余儀なくされた事業者の固定費を補償し、感染拡大防止のために安心して休業できることにはなりません。
 また、全商連は「1世帯30万円の『生活支援臨時給付金』は1人10万円として無条件で速やかに支給すること」を求めていました。 コロナ感染の影響は極めて広範で、国民全体が「自粛」や「感染拡大防止」などの対応を迫られ、さまざまな支出も余儀なくされています。無条件で速やかに1人10万円を支給することにより、収縮した経済の浮揚効果も期待でき、苦境脱出へのカンフル剤となります。

融資600万円の底が見え 一刻一秒争う

 都内で団体旅行の手配を中心とする旅行会社を営む東京・板橋民主商工会(民商)の久野富男さん(仮名)は、「2月は15件、3月は25件、4月は20件の予約がキャンセルになり、約2千万円相当の売り上げが減った」と話します。
 3月28日、政策金融公庫から運転資金として600万円を借り入れました。しかし、従業員4人とアルバイト2人の人件費、そして後払いになっている旅館などへの旅行クーポンの支払いなど、工面した資金は次々と出ていき、「すでに底が見えている」と話します。
 今後、雇用の維持のために雇用調整助成金を申し込むこと、さらに新型コロナ特別貸付を日本政策金融公庫に追加で申し込むことなどを準備しています。
 社長と専務の2月、3月の2カ月分の給与は未払いです。
 「持続化給付金を200万円受けたとしても雀の涙。固定経費や未払い給与などの何カ月分にもならない。雇用調整助成金はいつ出るのか分からない。自粛要請と補償はセットだ。損失を補償してもらわないと経営は維持できない。支援は早くやってもらわないと、一刻一秒を争う」と久野さん。
 「6月、7月に収束するのか、先も見えない。キャンセルも全部戻ってくるとは限らないし、手配はまた一からの仕事に。役員といっても小法人の場合は名前だけで従業員と変わらない。家のローンもあるし、生活にも困る」と窮状を訴えました。

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