消費税増税必要ない 税理士 菅 隆徳さんが試算
安倍首相は来年10月からの消費税率10%引き上げについて「予定通り実行する」と明言。増税対策として自動車や住宅の減税に巨額の財政を支出するとともに、「教育無償化」など社会保障拡充の国民の願いを逆手にとって強行する構えです。税理士の菅隆徳さんは「法人税の累進課税」を提起。19兆円の財源確保で、消費税増税は中止できるという菅さんに話を聞きました。
所得税は累進課税
-法人税を累進課税にするとはどういうことですか?
現在、法人税率は23.2%(2018年)の比例税率になっています。比例税率とは所得が増えても同じ一律の税率ということです。つまり、大企業も中小企業も負担率は同じということです。
国税庁の資料に基き、大企業優遇税制を廃止し、法人税に5%、15%、25%、35%、45%の5段階の超過累進税率を導入した場合の法人税額の推定を示しました。現在、法人税収は10兆4676億円(2016年)ですが、29兆1837億円と19兆円増えます(表1)。所得税と同様に、応能負担の原則で累進課税にすれば法人税収は2.8倍に増えるわけです。
-中小企業の負担は減るということですか?
法人税制を累進税率にすると中小企業は減税になります。現行税制の下での法人税額と、累進税率を導入した場合の法人税額を資本金規模別に比較すると大企業は増税になりますが、資本金5000万円以下の中小企業は減税になります。
低い大企業の負担
-「日本の法人税は高い」という声がありますが…。
資本金別の法人税負担率は資本金1億円超から5億円以下をピークに資本金の規模が大きくなるほど負担率は下がっています。
法人3税(法人税、法人事業税、法人住民税)の国際比較(2015年4月現在)を見ると日本は32.11%、アメリカよりは低く、中国やイギリスよりも高い(表2)。安倍首相や財界は中国並みに25%まで引き下げると言っているわけです。
しかし、これは表面的な法定税率を示しただけです。しかも国によって制度や仕組みに違いがあり、優遇措置も異なるので、表面的な法定税率を比較しても全く意味がありません。安倍首相や財界は法定税率を「法人実効税率」と言って企業が実際に払っている税率のように思わせていますが、これはごまかしです。法定税率は実際の負担率ではありません。
-大企業が払っている法人税の負担率はもっと低いということですか?
各社が公表している決算書や有価証券報告書から日本の大企業が実際に負担している税率を計算すると平均で15%です(表3)。表面的な法人3税の法定税率の半分以下です。中小企業より税負担が低いのは大企業優遇のさまざまな減税措置があるからです。
-具体的にはどんな減税措置があるのですか。
減税額が最も大きいのは受取配当益金不算入です。企業が持っている他社の株の受取配当金は利益に組み入れなくてもよいという制度です。連結納税は子会社に赤字があると親会社の黒字と相殺され、利益が圧縮されるために親会社の単独申告よりも税負担が少なくなります。連結法人企業の負担率はわずか4.7%です。外国子会社配当益金不算入は海外に子会社があれば配当の95%を利益から除けるので、税負担が少なくなります。
さらに企業が製造技術の改良、考案、発明のために試験研究費を支出した時、支出額の約10%を法人税から控除できます。大企業に対する減税は年間14兆円を超えています。
増税中止の世論を
-安倍首相は予定通りに来年10月から消費税率を10%に引き上げると明言しています。
消費税率2%の引き上げで約5兆円の税収が増えます。一方、法人税を累進課税にするだけでも、約9兆円の増収になりますので、消費税の引き上げは一切必要ありません。
消費税は社会保障のためでなく、法人税減税の穴埋めのために使われています。1990年から2017年までの28年間、税率引き下げや大企業優遇措置などで失われた法人3税は累計で280兆円、一方消費税の税収は累計で349兆円。約80%が法人3税の減税に消えています。
野党の中でも法人税を累進課税に、との研究が進んでいます。「消費税増税は中止」「大企業に応分の負担を求めよ」の声を広げ、来年の参議院選挙で市民と立憲野党の共通政策になるように働き掛けることが必要です。民商・全商連の皆さんの運動に期待しています。