混乱必至の“複数税率” “インボイス”税制で商売つぶすな|全国商工新聞

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 安倍政権は消費税10%への増税とともに、複数税率やインボイス制度を導入しようとしています。増税による消費の冷え込みを抑えようと、景気対策として2兆円もの予算を計上し、「軽減」税率や、クレジットカードなどで買った場合の「ポイント還元」「プレミアム付き商品券」などを発行。中小業者に新たな負担がのしかかるばかりで、バラマキとの批判が。混乱は必至と業界団体からも懸念の声が広がっています。「税制で商売をつぶすな」の声を広げましょう。

【目次】

免税業者が取引排除に 複雑な経過措置に困惑も
問題多いポイント還元 低所得者ほど恩恵少ない
名ばかりの「軽減」税率 中小業者に膨大な実務負担
納税額倍増のケースも
世論調査 経済対策“評価せず”66%
課税業者になると負担は? 大商連が計算チラシ

免税業者が取引排除に 複雑な経過措置に困惑も

2023年10月インボイス導入

 消費税率が10%に引き上げられると、4年後(2023年10月)から「インボイス(適格請求書等保存)方式」が導入されます(下にスケジュール表)。
 インボイスとは8%と10%の税率を取引ごとに区分した請求書のことです(図1)。

 インボイスを発行するには、消費税の課税事業者になり、適格請求書発行事業者として、国税庁の登録を受けなければなりません。未登録など不適格なインボイスを発行すれば罰則(1年以下の懲役または50万円以下の罰金)もあります。
 インボイス制度が導入されると、免税事業者から商品を購入した事業者は、免税事業者が発行した請求書などを保存していても消費税の仕入税額控除を受けることはできません。
 そのため、486万ともいわれる免税事業者は取引から排除されるか、自ら課税事業者になるかの選択を迫られることになります。

頻繁な制度変更対応に不安の声

 インボイス制度が導入されるまでの4年間は、経過措置として、「区分記載請求書等保存方式」により、(1)軽減税率の対象である旨、(2)税率ごとに区分して合計した対価の額(税込み)を記載します。
 区分記載請求書等は、免税事業者でも発行できます。
 23年10月以降も経過措置として6年間の特例が設置され、免税事業者からの仕入税額控除も初めの3年間は80%、その後の3年間は50%を認めることになっています。しかし、3年ごとに制度が変わる複雑さに、対応できるのか不安の声が上がっています。

問題多いポイント還元 低所得者ほど恩恵少ない

 「キャッシュレス」でのポイント還元とは、クレジットカードやスマホなどを利用して買い物をすれば、ポイントで還元するものです。中小小売店で商品などをクレジットカードで購入すれば5%、コンビニでのカード決済は2%のポイントを還元。9カ月間の限定です。
 初期投資も決済手数料も不用で、入金は翌日という「ペイペイ」などQRコードを使ったモバイル決済も広がりつつありますが、現状はキャッシュレス決済の中心はクレジットカード決済です。
 クレジットカードの読み取り端末の費用や月々の通信費、クレジット会社への手数料(3.25%)は事業者が負担しなければならず、増税に加えての負担増です。また、決済と入金までに時間差が生じ、資金繰りにも影響が出てきます。
 カードを取得するにはクレジット会社の審査を受けなければならりません。低所得者や高齢者は不利に。利用限度額の高い高額所得者ほど恩恵は大きくなります。
 カードは不正利用や偽造などの犯罪行為が横行し、個人情報の漏洩を防ぐ対策が万全とはいえない状況です。ポイントシステム「Tポイント」を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブがTカードの情報を令状もなく捜査当局に提供していたという事実も明らかになっています。
 ポイント還元では、複数税率とセットになることで買う商品、買う場所、支払い方法の違いによって消費税の実質負担率は5段階(図2)になり、無用な混乱をもたらします。

 しかも、ポイント還元は低所得者よりも高額所得者の方が有利に。還元額に上限はなく、銀座の個人経営の高級すし店で5万円分の支払いをキャッシュレス決済で行えば2500円分のポイントが還元されます。一方、大企業のファミリーレストランや回転すし店でいくら食事をしてもポイントは還元されません。
 日本スーパーマーケット協会や日本チェーンストア協会、日本チェーンドラッグストア協会の3団体は「必要のない混乱が生じる」との声を上げ、見直しを求める要望書を国に提出しています。

名ばかりの「軽減」税率 中小業者に膨大な実務負担

 「軽減」税率の対象は、飲食料品と新聞(週2回発行で定期購読)です。「軽減」税率といっても消費税が軽減されるわけではなく、税率が8%に据え置かれるだけです。しかも軽減されるのは2人以上勤労世帯では月額平均1130円、単身勤労世帯では同595円にすぎず(醍醐聰・東京大学名誉教授の試算)、喫茶店で飲むコーヒー1杯から2杯分しか軽減されないのです。
 「軽減」税率が導入されても、低所得者ほど税負担率が高いという逆進性は解消されません。年収200万円以下の層と年収2000万円以上の層の負担率の差は、税率8%では7.4ポイントですが、10%に増税すると、「軽減」税率を導入しても差が8.7ポイントに拡大し、逆進性はさらに強まります(図3)。

 さらに税率8%と10%の線引きが複雑です。ペットボトルのミネラルウォーターと水道水、オロナミンCとリポビタンD、牛肉とウシ、魚と熱帯魚、ホテルの部屋で飲むジュースと宴会場で飲むジュース、テイクアウトと店で残した食事の持ち帰り、学校給食と学生食堂、契約購読の日刊紙とインターネットによる電子版などによって8%と10%に税率が分かれ、混乱は避けられません(図4)。

 事業者は複数税率が導入されると売り上げ、仕入れともに8%と10%の商品などを分けて計算しなければなりません。
 特に仕入れについては帳簿だけでなく、取引先から受け取ったインボイスを仕入税額の証拠書類として保管することが義務付けられ、膨大な実務が押し付けられます。

納税額倍増のケースも

全事業者に影響

 安倍政権は10月から消費税率10%への引き上げと複数税率の導入を狙っています。これにより、年間4兆6000億円、1世帯当たり8万円もの増税に。
 事業者の納税額も増えます。売り上げの税率が10%で、仕入れの税率が8%の場合は、納税が2倍にもなるケースも(図5)。複数税率で帳簿などの実務が煩雑になり、課税の有無で取引先から選別されるなど、業種や規模にかかわらず、全ての業者に大きな影響があります。

世論調査 経済対策“評価せず”66%

課税業者になると負担は? 大商連が計算チラシ

大阪商工団体連合会(大商連)が作製した、免税業者が課税業者になった場合の負担増を計算できるチラシ(計算式部分のみ抜粋)

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