二、中小業者・国民本位の景気対策へ6つの緊急対策

(1)国民のふところを豊かにし、個人消費の拡大を
 景気を良くするもっとも重要な柱の一つは、個人消費を拡大することです。そのためには、収入、所得を増やすとともに、将来・先行きへの不安を最大限とり除くことが重要です。この立場から次の対策を早急に実施することを提案します。

1.消費税を3%に戻し、大幅な所得税恒久減税を
 消費税を3%に戻して5兆円減税し、加えて大幅な所得税恒久減税をおこなうことを提案します。
 消費不況打開に役立つ減税にするには、多くの国民が減税を実感できることが必要です。そのためには、消費税率の引き下げこそ、多くの国民に効果がおよびます。また、所得税減税は1年限りでなく、恒久減税とすることがポイントです。

2.工賃、賃金引き上げで収入を増やし、国民犠牲のリストラ規制を
 緊急に工賃、賃金の引き上げを実施することが必要です。
 さらに、政府の責任で、大企業の不法な下請単価切り下げなどの行為を厳しく取り締まること、ヨーロッパ・EUのように、大企業のリストラを事前に報告させ、労働者、関連業者等の合意を義務づけること、などの措置をとるべきです。
 中小業者の下請単価、工賃は一段と引き下げられています。所得税減税の打ち切りに加えて、社会保険料の引き上げなどで、多くの労働者は自分が自由に使える所得が増えていません。
 また、大企業の一方的な海外への生産拠点の移転や人減らしはなお増える傾向です。取引先や自分が働いている会社の一寸先は全く不明という不安がひろがっているのが現実です。自らの企業利益だけを追求する大企業の身勝手な行動を野放しにしたままでは、景気を冷え込ませてしまいます。

3.医療・年金改悪中止、保険料の「不況減免」など社会保障の充実、将来への不安解消を
 医療、年金、福祉のこれ以上の改悪はキッパリと中止し、各種保険料の「緊急不況減免」など、国民負担を軽減し社会保障を充実することは、当面の景気対策上緊急に必要です。
 年金の支給開始を遅らせ、給付額も減らすなどの年金改悪が準備され、介護体制もまったく不備というように、将来・老後への不安は高まるばかりです。これでは、国民一人ひとりは「自己防衛」に走らざるを得ず、とても消費に金をまわすどころではありません。

4.財源はムダ使いをやめるなどで
 減税や社会保障充実の財源を、結局は国民の借金になる国債にたよるのではなく、軍事費や首都移転のようなぼう大なムダを削り、大企業優遇税制を改めることで確保することを提案します。
 また、政府は、就労人口を無視した「年金財政危機」論など、医療、年金財政の「ゴマカシ危機」論をふりまくことをやめるべきです。

(2)不況打開へがんばる中小業者向け金融の大幅改善

1.「金融改革」はまず銀行と大蔵省のゆ着を断つことから
 「金融改革」をやるというなら、まず、銀行と大蔵省のゆ着を断ち切ること、そして、すべての金融機関の公共責任を明確にして、中小業者の営業の活性化、地域経済の振興、国民生活向上などに貢献する金融機関へと、その体質の改革をおこなうべきです。
 橋本内閣が打ち出した今回の「金融改革」では、資本力のある大銀行・大企業(外国企業を含む)が、銀行・証券・保険という金融業界全体を支配するような事態につながります。これでは、中小業者、国民が安心して利用できる金融機関の確立にはなりません。中小企業・中小業者と密着した地方銀行、信用金庫、信用組合を経営破たんに追い込む「改革」は、商店街や地場産業、地域経済の振興を求める国民要求に逆行します。
 本来、公共的性格の強い金融機関は、今日の不況をつくり出した責任を自覚し、不況打開・地域経済の振興へ貢献するのが本筋です。
 大蔵省は、いまこそ、監督官庁本来の役割を正しく発揮し、金融機関を指導しなければなりません。

2.「貸し渋り」を確実にやめさせるために
 いま、すべての金融機関がやるべきことの第一は、「貸し渋り」「強引な回収」をやめることです。全商連の「営業動向調査」でも、資金繰り対策として、「設備投資を中止した」業者がこの半年で二倍も増えています。金融機関の横暴が景気回復を遅らせていることからも、事態を早急に解決すべきです。
 銀行などの「貸し渋り」の結果、ノンバンク、高利貸しにたよらざるを得ない業者が増えており、営業と生活を一段と深刻なものにしています。
 国・自治体は、通達指導だけでおわるのでなく、常に実態をつかみ、金融機関の異常な行為を是正させるために全力を尽くすべきです。悪質な例については公表するなど、社会的制裁措置もおこなうことです。

3.「不況中は返済を求めない」など返済弾力化で利用しやすい制度へ
 500万円以上の融資については、返済期間の長期化によって返済しやすくすることや、「不況」期間中は返済を求めないなど、返済の弾力化で利用しやすい金融制度にすることがポイントになっています。
 現在は、長期融資は、高度化事業の一部に限られています。先行きへの見通しが不透明なときに、返済能力を考えて融資を受けることをためらう業者が多数です。
 また、今日の売上げ・利益の実情では、5年、7年では1カ月の返済額が高く、返せないという実態もあります。
 大企業向けには、設備投資資金専門の長期信用銀行などの特殊銀行が設立され、戦後の大企業の成長を支えてきました。政府も「21世紀は中小企業の時代」と言っており、この立場にたって、返済期間・保証人・担保などの要件を大きく改善することがなければ、融資資金を何十兆円確保しても、生きた対策にはなりません。

4.無担保・無保証人融資の地域差の改善を
 全国すべての市町村で、無担保・無保証人融資が受けられるように予算措置をとること、「個人は可能だが法人はダメ」などの差別をなくすことです。
 依然として担保・保証人を厳しく要求される今、無担保・無保証人融資の役割はますます大きくなっています。 しかし、この制度の利用者数はまだまだ少数にとどまっています。その要因は、この制度を確立していない自治体がまだ多く残されていること、自治体や信用保証協会がこの制度の利用を抑える姿勢を続けていることです。
 国、自治体は中小企業向け融資のなかで、この制度への位置づけを高め、改善し、啓蒙をつよめることが必要です。
 また、いわゆるマル経融資について、商工会・商工会議所の経営指導などの要件を緩和し、多くの業者が利用しやすいものにすることを提案します。

5.代位弁済も信用保証協会の役割
 信用保証協会の「保証渋り」は緊急に是正すべきです。
 大企業などに比べて信用力で不利な立場にあり、通常の融資を受けることが困難な業者の信用を補うのが信用保証制度です。信用保証協会が代位弁済をおそれて、銀行以上に厳しい審査をすることは、制度本来のあり方と逆立ちしています。代位弁済も信用保証協会の大切な役割です。
 信用保証協会が「保証できない」としたが「銀行が融資する」とした事例さえあることは重大です。
 また、付保限度額が倍額になる「不況業種」指定に関して、いまのような時期には、圧倒的多数の業者が利用できるようにするために、逆に、その必要のないごく少数の「適用外業種」を指定するやり方に変えることを提案します。

(3)商店街・中小商業の振興へ大手小売業の規制法を

 大型店や大手小売資本が支配するコンビニの出店、その日常の営業活動に対して、国民の立場からの規制をつよめることが必要です。
 私たちは昨年6月、『全商連の流通ビジョン』を発表しました。そこでは、(1)都道府県知事が指定した特定地域では、当分の間、大型店、大手系コンビニの出店を禁止する特別法の制定、(2)中小小売業の事業機会の確保や、住民総意のまちづくりの推進を目的にして、大型店等の出店は知事による許可制とすることや、大型店の長時間営業などを規制する、「大店法」の抜本的な強化・改正(法律の名前もかえる)、(3)消費者・住民とともに商店街の活性化をすすめる、(4)国・自治体は中小商業振興への支援を格段につよめる、などを提案しました。
 私たちは、これ以上の規制緩和となる政策はやめること、多くの国民の要求にそって、規制強化に転換する方向の実現めざして引き続き奮闘します。
 政府は、新しい方針を打ち出していますが、規制緩和政策のこれ以上の推進は、日本経済の歪みを拡大し、景気対策上も逆効果です。
 私たちは当面、(1)大型店の出店や撤退を規制・調整する仕組みをつくる際、住民、中小業者、労働者の意思が十分反映される仕組みを確立すること、(2)店舗面積、営業時間等の商業調整の廃止をやめ、不公正な取引など日常の営業行為を規制すること、(3)地方議会や自治体が住民や中小業者などの要求をくみあげてつくりあげた条例、要綱を国は尊重すること、(4)中心市街地への大企業の出店に対する公的支援はやめること、(5)都市再開発や区画整理事業を権力的に強行しないこと、(6)大企業の地域経済への貢献を義務づけること、などを提案します。

(4)地域産業支援などを重点に中小業者の仕事を増やす

1.公共事業を住民生活・福祉充実型に転換して中小業者の仕事を増やす
 分離・分割発注などで中小業者への発注を拡大することとともに、公共事業を住民生活の安全・向上や福祉充実、中小企業優先型に、その内容を大きく転換することが緊急に必要です。こうして、中小企業への発注を大きく拡大することを提案します。
 公共事業に対する国民の批判が高いのは、自然環境破壊の海・川などの埋立や、首都移転など、ムダと大手ゼネコンだけが潤う大規模プロジェクトに大きくかたよっているからです。道路建設も、生活道路整備は遅れており、住民などが自由に使える公共施設や介護施設、防災などは十分ではありません。また、快適な公共住宅の建設、中小企業センターの設置・拡充、商店街整備など、まだまだ必要な公共事業は少なくありません。こうした分野は、欧米諸国から遅れていると言われています。
 このような、国民生活に密着した分野の公共事業は、中小業者の受注が可能な事業であり、景気対策としても大規模公共事業に比較してはるかに効果があります。かつて自民党の幹部も、「政府の緊急経済対策で拡大した公共事業は、景気波及効果が少ないものばかりだった」と反省の弁を語ったことがあります。

2.地域産業支援重点の中小企業対策へ
 中小企業対策予算は、中小企業者が不況打開の先頭に立って経営革新をすすめようとしているいまこそ、地域産業支援、技術・情報、市場開拓などの支援に重点をおくべきです。
 とりわけ、任意の団体、グループ、個人の地域経済の活性化に貢献する技術開発、新製品開発、市場開拓などへの支援を飛躍的につよめるべきです。 中小企業対策予算の決定的な問題点は、新規施策が重点で、モノづくり支援など系統性が必要な施策を削っていること、商工会・商工会議所等を通じての支援がほとんどであること、予算額が少ないために、支援を受けることができるのはほんの一部であることです。

(5)休業補償制度をいまこそ

 緊急に救済が必要な地場産業などを対象に、休業補償制度創設を提案します。
 地場産業の多くは崩壊の危機に直面しています。大企業の海外生産拡大や生産調整の都合などで崩壊させてしまうことは許されません。
 地場産業の多くは、地域の経済・雇用をまもり、地域社会を存続させるという点で、かけがえのない役割を担っています。
 また、真に豊かな国民生活を実現するという将来展望と地域経済の自立的発展の条件を保全・確保するという観点に立つことが重要です。
 この問題は、90年代前半に中小企業政策審議会や国会でも議論された経緯があります。今日の事態のもとで再度検討し、国・自治体を中心とした公的資金で緊急に実行すべきです。
 また、経営危機と相まって健康破壊がひろがっています。中小業者の病気やケガによる休業にたいする休業保障制度の確立も必要です。

(6)地元産業振興で働く場をひろげ、住民のくらしまもる自治体へ

 自治体が、中小企業向け融資制度の強化や、商店街・地元産業振興の担当者・専門職員をふやし、地域の産業振興で雇用の場を確保するなど、景気対策強化のイニシアチブを発揮し、住民の営業とくらしを守ることを提案します。
 そのために、中小企業対策・福祉担当者の人減らしなど中小業者・住民犠牲の「自治体リストラ」を凍結・見直し・撤回することこそが重要です。
 「住民及び滞在者の安全、健康、福祉を保持する」とした自治体の役割を果たすために、憲法を暮らしのなかに生かす住民自治の確立が、今日の情勢では格別に重要になっています。  いま、多くの自治体におしつけられ、数値目標をもってすすめられつつある「自治体リストラ」は、住民自治と景気対策に逆行するものです。
 大型店問題、金融問題その他、地方自治体が地域の経済・産業の振興に果たす役割はいちだんと重要な時代です。