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  トップページ > 経営のページ > 経営 > 全国商工新聞 第2923号 4月19日付
 
経営
 

ドイツのマイスター制度の今


依然として品質保証ブランド
 神戸市外国語大学名誉教授 近藤 義晴

 現在、日本は深刻な生活危機に見舞われ、破壊的価格競争が激しい。不況時には購買力が低下し、低価格の財およびサービスが求められる。同じ質の物をより安くとの購買行動はもちろん、質が劣るとしても安い価格の物をとの購買・消費行動が広がる。
 「安物買いの銭失い」の現象は、ドイツ社会にも当然見られる。西ベルリンの繁華街に、日本の百均ショップ同様、1ユーロ・ショップが存在する。出所不明の日用雑貨品が所狭しと陳列され、そこそこに客が入る。粗末な万年筆と1袋50個のカートリッジを合計2ユーロで購入した。カートリッジが切れるまでペン先がもつか怪しいが、当面使える。

 しかし、廉価品の存在は今に始まるものではない。20〜30年前に旧西ドイツの首都ボンでも、高級専門店、百貨店、量販店など業態の異なる店舗で、質の差に応じた異なる価格で類似の商品が販売されていた。並存は、競争をはらみつつ、所得ないし購買力の差異や用途の差異(長持ち用か、間に合わせ用か)によって購入・消費される様相を物語る。
 ドイツ統一やEUの空間的拡大に伴い、商品や人の自由な移動が促進され、様相は複雑さを増す。量販店の安売り攻勢に客はなびく。ドイツ人を含む国内居住者がみんな、ドイツ製の高品質高価格品のみを消費するわけがない。
 良質な物の提供を規範とするハントヴェルク(手工業)もこの波に襲われる。ハントヴェルクが工業製品などに押され存立基盤を狭められたといわれ久しい。しかし、ハントヴェルク経営は小規模ながら、多様化・高質化する個別的要求に相応の価格で応える存在として評判を維持し、「マイスター」は、依然として品質保証ブランドとして良好なイメージを保っている。
 ハントヴェルク団体は、営業規制の維持、すなわちハントヴェルク分野となる事業領域の確保と、マイスター資格保有者にのみ認められる営業権と職業教育(後継者育成)権との一体性の維持とを、法制度として定着させてきた。規制が経済生活すなわち財およびサービスの享受における高い質を維持し、その質を人的に支える労働力の質的維持・向上に不可欠であり、ドイツの国際競争力あるいは産業立地の確保、さらには破壊的価格競争による生活の質的低下回避につながる、との考えからである。

 確かにこの規制は、十数年来、EU規定との調和化および規制緩和化の流れにおいて批判され、緩められた。しかし、ハントヴェルク規制・マイスター制度の基本は、ドイツの持ち味・強みを守るとの配慮からも、なお法的に堅持されている。
 企業ないし業者にとり、規制の有無を問わず、競争を進めながら独自性や創造性を発揮して需要者が求める財、サービスの質を満たすことは、経営存続の基礎的課題であろう。

 ハントヴェルクを中心とする独立の中小業者は、質の高い財およびサービスを多様に提供し、また地域の経済的・社会的・文化的共同体形成を担う主体として、存在意義を認められてきた。今日あらためて、国および地域の不可欠な構成単位として重要視される。
 EUの小企業憲章およびドイツの中小企業重視政策の成果の検証の必要からも、荒海の中で、伝統を踏まえ将来に向けて革新を模索するハントヴェルクの営為を考察する意義は大きい。

兵庫県連が視察

 兵庫県商工団体連合会は60周年事業の一環として、6月1日から10日間、マイスター経営訪問を含む視察旅行を催す。参加希望者は、事務局(Tel078・341・0563)まで。

   
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