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  トップページ > 業種のページ > 匠の技あり > 全国商工新聞 第2963号 2月21日付
 
業種 匠の技あり
 

水のように流れる音づくり=広島・福山琴

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甲の内部に彫刻を施す彫り作業

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完成し出荷を待つばかりの福山琴

 広島県福山市で作られている「福山琴」―。1985年に楽器としては初めて国の伝統工芸品の指定を受けました。その琴を半世紀にわたり作り続ける藤井善章さん(67)=有限会社藤井琴製作所代表。福山琴を担う数少ない伝統工芸士の一人です。

 「いい音色が出せてこそ福山琴だ」。琴作り職人として藤井さんがこだわってきたことです。
 製材から仕上げまで大きく5つの工程に分かれる福山琴の製造工程。その一歩が琴の材料となる桐の木の選定です。「いい材でないといい音は出ないからね」。木目、色、硬さ、粘り…。「今ではどこ産の桐か、材木を見ただけでわかるよ」。その眼力はまるでワインのソムリエのようです。
 琴の命は音響効果。弦を張る甲と裏板の間にできる空間の作り具合が勝負です。
 「音も水のように流れる」。藤井さんがたどりついた独自の理論。それは甲の裏側をくぼみができないようにカンナで削ることでした。「くぼみができたものと比べ「遠くまで音が響く『遠音』が聞こえるようになる。音色に深みが出るんですよ」。機械ではできない手づくりの職人の技が光ります。

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白い桐の木目が焼き作業でくっきりと浮かび上がる

木目の美しさを決める焼きゴテ
 驚かされたのは甲づくりの最終工程の“焼き”でした。
 1500度にもなった鉄の焼きゴテで琴の本体である甲の表面を焼いていく作業。桐の独特の木目を浮き立たせるための工程です。
 焼きゴテが甲に当たった瞬間、パッと上がる炎。琴に命が吹き込まれるような思いにとらわれます。
 「簡単にやっているようだけど、独特の桐の木目を浮き立たせることによって、琴らしい光沢がでてくる。いい木目が出るかはこの作業で決まるからね」。
 焼きゴテの重さは7キロ。作業は時に半日にも及ぶ重労働です。

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竜舌部分に装飾された蒔絵

 竜に見立てられた琴の各部に柏葉、竜角、四分六などのきめ細やかな飾りをつける装飾とは一味違った工程です。
 「形のない桐の原木が、繊細な調べを生み出す福山琴へと姿を変える。それが仕事のやりがい。まだ納得できる琴は作れていないけどね」。音をつくり出す繊細な技術と体を酷使する重労働。琴職人の誇りがそれを支えています。

福山琴とは
 85年に楽器として初めて伝統工芸品に指定された。すぐれた音色、装飾の華麗さで知られ、琴の全国生産量の6割を占める。材質は桐の木で、長さ6尺(約1メートル80センチ)。その歴史は江戸時代にさかのぼる。「春の海」で知られる筝曲家、宮城道雄の父、菅国次郎の出身地は福山・鞆の浦で、その関係から「春の海」の舞台は鞆の浦ともいわれている。2010年4月5日に打ち上げられたスペースシャトル「ディスカバリー」に宇宙飛行士・山崎直子さんが通常の5分の1のサイズ(長さ35センチ、幅13センチ)の福山琴を持ち込み「宇宙琴」と呼ばれた。同月12日、日本実験棟「きぼう」の船内で、野口聡一さんが吹く竜笛と「さくらさくら」を合奏した。

▼伝統工芸士とは
 「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」(伝産法)第24条8号に基づいて財団法人伝統的工芸品産業振興協会が行う認定試験に合格した者に与えられる称号。誕生時は通産大臣の認定資格であり、経済産業大臣認定資格を経て、現在は同財団が認定事業を行っている。09年2月現在の登録数は4580人。

▼有限会社藤井琴製作所
 広島県福山市御幸町上岩成796の2
TEL・ファクス:084-955-5895
代表取締役 藤井善章
 経歴 1943年生まれ。福山邦楽器製造業協同組合理事、伝統工芸士。中学卒業後、地元の楽器会社に入社。77年、有限会社藤井琴製作所を設立。

   
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