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  トップページ > 業種のページ > 建設土木 > 全国商工新聞 第2815号 1月28日付
業種 建設土木
 
変わる業界=建築
改正建築基準法で伝統構法存続の危機
建築確認の厳格化に異議
建築関連5団体 柔軟な運用を国に要望
 改正建築基準法(07年6月20日施行)をめぐって、建築業者の集団が立ち上がっています。職人がつくる木の家ネット、伝統木構造の会、日本曳屋協会、日本民家再生リサイクル協会、緑の列島ネットワークの5団体。国土交通省に昨年11月、要望書(質問事項)を提出し、法改正による過剰な厳格化に異議を唱え、「このままでは、伝統構法の技術が継承できない」と声を上げています。

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熊谷さんが受注した住田町営住宅
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陸前高田市に立ち並ぶ気仙大工が建てた民家
木組み生かせる仕組みつくって
  5団体が要望しているのは、(1)今年12月に廃止予定の4号建築物(2階建て以下の木造住宅)の建築確認の特例は受け入れざるを得ないものの、提出する図面は必要最小限にすること(2)木と木を組む「木組み」などの伝統構法の検証や研究の成果を活用できる仕組みをつくること(3)地方ごとに違いがある伝統構法をピアチェック(注(1))の対象にせず、各地で審査できるようにすること‐‐などが主な内容。国土交通省から近いうちに回答を得ることになっています。
  日本の木造住宅には、代表的なものとして「在来構法」があります。柱や梁などの木材が建物を支え、「日本にもともとあった構法」という意味です。
  一方、伝統構法とは社寺・民家などで見かける日本古来の構法です。
  在来構法が伝統構法と大きく違うのは、接合部分に金物を使ったり、斜めに筋交い(補強材)を入れていることです。住宅建築は金物で接合するのが普通になる一方、木組みの伝統構法は評価されず、建築基準法の中でもカヤの外に置かれました。

金物がなくても強度を十分発揮

  日本民家再生リサイクル協会副代表理事の和田勝利さんは「阪神大震災以降、木造の特性に関する研究や実験が進み、金物に頼らずとも十分強度を発揮できることも確認されている。こうした成果を活用できる仕組みづくりが必要」と強調します。同協会は古い民家を保存、再生、リサイクルし、住み続けられるようにしています。
  和田さんらの運動などが反映し、伝統構法を再評価する動きが強まり、2000年の建築基準法改正で「限界耐力計算法」(注(2))で安全性を証明すれば、伝統構法の建築確認が得られるようになりました。
  ところが、今回の改正で「限界耐力計算法を用いるものについて、ピアチェックに回す」ことになりました。国が管理する「ピアチェック」は、確認申請が出された自治体から中央に送られ、審査時間や費用がかかる上に膨大な資料を作成しなければなりません。「事実上、伝統構法で家を建てる道が閉ざされたことと同じ」と和田さんは指摘します。

伝統構法は文化 技術つぶせない

  地方からも強い意見が上がっています。岩手県の陸前高田市をはじめ旧気仙郡に伝わる気仙大工の一人、菅野照夫さん(63)は怒り心頭です。気仙大工建築研究事業協同組合の事務局長を務め、職人がつくる「木の家ネット」の活動に携わっています。「伝統構法は地方の文化。地方によって違いがあり、国の法律によってすべてを縛るのはおかしい。なぜ、木造建築の伝統技術がつぶされようとするのか、納得できない」。
  気仙杉と呼ばれる豊富な資源を使って気仙大工がつくった民家が建ち並ぶ同地域。県や自治体もその技術を生かし、地元木材を使った公共施設や住宅などを建設しています。
  「今回の改正はハウスメーカーを助けるようなもの。本来は必要のない金物を使わなければ建築確認が下りないというなら、費用がかかりすぎて気仙大工はやっていけない。最終的には建主に負担がかかる。われわれは断固たたかう」と菅野さんは決意しています。
  同組合理事長の熊谷進さんも怒っています。現在、町営、県営の木造住宅を受注しています。地元材をふんだんに使った骨太の建物。これまで建築確認が下りるのに数週間だったのが、2カ月ほどかかりました。「姉歯設計士のようなほんの一握りの法律違反者のために、われわれが苦しむのか。安く上げようとして手を抜いたら町場の大工には仕事がこない」と強調します。「地方に伝わる建築物は地方に任せてほしい」というのが熊谷さんらの共通の思いです。

大工同士団結し国に改善を迫る

  初代理事長の小泉勉さんは「われわれにも責任がある。大工同士が横のつながりをもとうとしなかったことが、今回の改正を許してしまった」と指摘します。「あらゆる団体が団結しなければ、国を動かすことはできない。家は買うものでなく、造るもの。建主と一緒になって造った家を末代まで残し、その技術を次代につなぐために国に改善を迫りたい」と小泉さんは話します。
  伝統構法を継承できるかどうかの瀬戸際です。気仙大工の存在をかけ、ムシロ旗を上げたたたかいに挑んでいます。

(注(1))ピアチェック、専門家による二重チェックのこと。高さ20メートルを超える鉄筋コンクリート造りの建築物など一定の高さ以上等の建築物については、第三者機関による構造審査が義務付けられました。
(注(2))限界耐力計算、建物が地震の際にどこまでその力に耐えうるかという指標を示すもの。建築基準法施行令第82条の6に、限界耐力計算法の内容が箇条書きされています。

<解説>
厳格化が景気に悪影響 中小建設業者支援こそ

  改正建築基準法では耐震偽装事件の再発を防止するとして、建築確認の検査が厳格化されました。住宅着工が大幅に遅れ、景気に悪影響を与え、中小建設業者の経営が危機的状況に追い込まれています。
  改正の柱は、(1)「一定の高さ以上」の建築物は指定の第三者機関による構造計算審査(適合性判定)の義務化(2)3階建て以上の共同住宅に全国一律での中間検査の義務化(3)審査期間を最大70日までの延長が可能など‐です。添付書類が大幅に増えるとともに、確認申請後の変更が認められず、再申請を求められるケースも目立っていました。
  こうした厳格化に各方面から柔軟な運用を求める声が上がり、国土交通省は昨年11月、建築確認審査の一部を緩和し(1)構造方法、材料などにかかわる大臣認定書の写しは審査機関が認定内容を確認できない場合に限って添付する(2)間仕切りや開口部の変更は防火、避難上の性能が低下しなければ再申請を求めない‐ことにしました。
  しかし、08年12月からは4号建築物(木造2階建て以下の建物)は特例制度が廃止されようとしています。基礎伏図、構造詳細図、使用構造材料一覧表などの図書提出が義務化され、建築確認がさらに混乱すると懸念されています。また、特定住宅瑕疵担保責任履行確保法が新設され、保険加入が義務化され、小規模業者ほど多額の保証金を供託しなければなりません(09年秋までに施行予定)。
  全国商工団体連合会は、(1)4号建築物の特例廃止を凍結すること(2)国民合意の建築物の品質・安全性確保の審査・検査体制を検討し法改正すること(3)現行の設計・施工体制を踏まえ、中小建設業者に「過度の負担」にならないよう留意し、支援体制を講じること‐など求めています。
 
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